黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する (写真=朝日新聞社)
黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する (写真=朝日新聞社)
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※写真はイメージです (Getty Images)
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 ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は自宅に訪れた生き物たちとの交流について。

*  *  *

 十日ほど前の夜、リビングでテレビを見ていたら、掃き出し窓のあたりでなにかが動いた。がこちらを覗(のぞ)き込んでいる。いつもの黒猫かと思ったが、よく見ると、狸(たぬき)だった。

「ハニャコちゃん、狸が来てる」隣でいぎたなく眠りこけているよめはんにいうと、片眼をあけて、

「あ、ほんまや。狸さん、久しぶり」と挨拶(あいさつ)した。

 わたしは台所へ行き、焼き芋を持ってきた。掃き出し窓を開けると狸は逃げたが、庭の沓脱(くつぬぎ)石の上に焼き芋を置くと、すぐにもどってきた。皿に牛乳を入れてやったら、それも飲んだ。

 十年ほど前、春から秋にかけて狸の餌付けをしていた。毎晩、八時ごろになるとやってくる。たいていは二匹。多いときは四匹(家族?)が来て、わたしの手からハムやチクワをとることもあったし、食後は庭で遊んだりした。よめはんもわたしも狸が来るのを楽しみにしていたが、秋になったころ、狸より先に猫が来るようになった。狸は臆病だから、猫がいると近くに寄りつかない。それでわたしは餌付けをやめた──。

「また、家族で来るようになったらおもしろいね」

「明日は牛乳を温めよか」

 そんな話をしたが、次の日、狸は来なかった。牛乳とドッグフードを置いていてもそのままだった。

「あれはなんやったんやろな。ただの気まぐれか」

「焼き芋はもうええと思たんやわ。喉(のど)につかえるし」

 大阪・羽曳野の住宅街に引っ越して二十年、広くもない庭だが、いろんな生き物が来た。池の金魚を狙ってアオサギ、池にカエルがいたころはシマヘビ、キジバトが巣をかけたときはアオダイショウ、トンボが来ると池にヤゴが増えるし、アゲハが来ると金柑(きんかん)や山椒(さんしょう)の木が丸裸になる。なかでもいちばんおもしろかったのはアシナガバチだった。

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