落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「引退」。
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欅坂46の平手さんがグループを「脱退」するそうです。「卒業」でなく「脱退」なのが、何やら物議を醸してますが、「脱退」と比べると「卒業」のほうが達成感のある穏やかなイメージでしょうか。状況を見て周りが「脱退」だな、と判断するのか、当人が「『脱退』でお願いします」と注文つけるのか? 似たような言葉はいっぱいありますが、「離脱」じゃダメですか? 「離」に強い意志を感じさせ過ぎか。「脱会」だと、グループに信仰を匂わせるし、「出所」は出迎えの必要がありそうだし、ならばいっそのこと、「出獄」がいいと思うんですがダメですか? 『平手、出獄!』いいなあ。
今、ニュースで確認したら当人が「脱退」という表記を希望したらしいです。その理由は今は話したくないらしい。同時に抜ける他のメンバーは「卒業」らしい。今後は女優として活動していくかもしれないらしい。どうやら今回のテーマをこの話題で進めていくには、これがもう限界らしい。らしい。
いや、もうちょい引っ張ろう。私が平手さんだったら「退団」にしてもらうな。「退団」、いい響きです。スポーツ選手がチームを抜けるときは「退団」。読売ジャイアンツの場合、巨人軍なんですから「退軍」というべきではないですか? 軍、ですからね。軍。「退軍」……あ、辞書を引くと「軍隊を後退させること」とあるから違うな。「除隊」ですか? 「退役」のほうがいいかもしれません。激しいパフォーマンスを見る限り、平手さんには「退役」もしっくりくる。『平手、退役!』これに決定!
無駄な前置きが長くなりましたが、さて『引退』です。落語家の場合、引退する人は滅多にいません。「引退同然」の人はいるかもしれませんが、「もう落語はしない」と公に引退を宣言された方は先代の圓楽師匠くらいではないでしょうか。