一方、「廃業」する人はいます。こちらは師匠による「クビ」か、自主的に落語家から足を洗うか、どちらかの場合です。寄席の楽屋に「〇〇は△月末日をもって廃業いたします」と貼り紙がでることも。若手が志半ばで落語家を辞めるのは『廃業』なんでしょうね。平手さんが『脱退』を希望したように「私は『廃業』でなくて『引退』でお願いします」と落語協会に注文しても「いやいや、何言ってんすか? あなたは『廃業』ですよ」と突っ返されます。願いが聞き入れられたとしても、楽屋中から「おいおい、お前は『廃業』だろ!?」と総ツッコミを受けることでしょう。落語家の『引退』か『廃業』かは確実に周囲が決めますが、前述のように『引退』する人はほぼ100%いないので、辞める=『廃業』です。
前座が廃業しても、公式に知らされることはありません。こないだまで楽屋働きしていた前座が居なくなり、風の便りで「辞めたらしいよ」と聞くのです。とある師匠が「俺は前座の名前は覚えないし、挨拶されても返さない」と言ってました。ずいぶん非道い話だな、と思いましたが、その後に「そいつが辞めたとき……つらいんだよ……」だそうです。そういえばこの師匠は私が前座のとき、とてもおっかなかった。二つ目になったら急に優しくなったなあ。
私がこの先『退団』すると、この師匠が悲しむのが分かって、ホッとしたのでした。
※週刊朝日 2020年2月14日号