熱燗とノンアルで乾杯。「こんなことよくあるんですか?」と不思議そうな運転手。「……逃げたくなることも……あるんですよ……」と私はホロリと涙を流す。「(察して)……一献いきましょう! お客さんっ!」。やったりとったりしているうちに、鍋の〆の雑炊をすすり始めると14時を回っている。本来なら池袋演芸場の高座に上がってる頃。恐らく誰かが穴を埋めてるだろう。罪悪感。ただその後の上野鈴本演芸場は私がトリだ。「本当に行かなくていーんですか? みんなトリのあなたを楽しみにしてるんじゃないんですか!?」「……」「上野だったら飛ばせばまだ間に合いますよっ!!」「……」「あんたには落語しかないんじゃないのかよっ!!」「………うるせえ! おれはアンコウ食いに来たんだっ!! 邪魔するなら帰れっ!」
真にうけて運転手、本当に帰っちゃった。トリの寄席も無断欠勤の私。夜の草加落語会もこの分だと間に合わない。後は野となれ山となれ、だ……。あ、いや、ここまで書いてきて妄想とはいえ怖くなってきた。いや、だって仕事を黙って抜くなんて怖すぎる。根が真面目、というか臆病なんだな、私……。
こないだ会った同業の先輩に「君は年に何百回も落語やってるらしいけど、『暇』なのか!?(笑)」と呆れられた。そうか、俺は暇潰しに落語やってんだ! そう思ったらなんか楽になってきた。17日が締め切りのこの原稿も「逃げたい」と思っていたら、なんか書けてしまった23時30分。明日も仕事……否『暇潰し』。やっぱり俺は逃げないぜ。
※週刊朝日 2020年2月7日号