その金をポケットから出したらキーが落ちた。

「なんと、ロッカーのキーも返してへんかったんか」
「だって、知らなかったんだもん」
「分かった。知らんかったで、世の中のたいていのことは片が付く」

 運動神経がいいだの、パットが巧いだのと褒めそやしておきながら、その友だちからゴルフに誘われることは二度となかった。

 それからは、もらったクラブと千五百円の靴で、年に一、二回はコースをまわった。スコアはいつも百三十そこそこで、百二十を切ることはない。まことに低値安定というべきか。

 二十年ほど前、出版社主催のゴルフコンペに誘われ、「おれのクラブはパーシモンで、グリップは革巻きやで」と自慢したら、さすがに編集者も哀れに思ったのか、知り合いの会社オーナーからクラブセットとバッグをもらってくれた。そのコンペは作家Oといっしょだったが、なんと、彼は七十五でまわったから驚いた。ぶっちぎりの優勝だった。パーティがよかったのかもしれない。

 ゴルフ歴四十年にしてコースは五十回ほどまわったが、練習場へ行ったのはせいぜい五回か。いま使っている靴ももらいものだ。

 で、先日の新年ゴルフ。前半六十二、後半六十二と、みごとに安定していた。

週刊朝日  2020年1月31日号

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黒川博行

黒川博行

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

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