ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回はゴルフについて。
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去年の暮れ、芸大卒業生(京都・今熊野の雀荘に集まった麻雀仲間)の忘年会で、珍しくゴルフに誘われた。いつものメンバーのひとりが腰痛で参加できず、その交代要員だという。
「いつなんや」わたしは訊(き)いた。「一月の中旬」「そんな寒いときに、なにが悲しいてゴルフなんぞするんや」「ゴルフは年中できる。二月になったらもっと寒い」「おれ、一年以上してへん」「あほでもできる」
あほ、という言葉がひっかかった。しょっちゅうやっているこいつらはもっとあほやんけ──。
実は、わたしのゴルフ歴はけっこう古い。初めて行ったのは二十代の後半、京都のスナックで友だちと飲んでいて、その店のコンペに誘われたのだ。会費は五千円、豪華な景品(テレビやホットプレート)があるという。──そう、当時は飲み屋のゴルフコンペが流行(はや)った。会費の五千円は、いま考えると高いが──。「おれ、ゴルフなんかしたことない」「球を地面においてクラブを振るんや」友だちがおもしろがっていう。「クラブも靴も持ってへん」「おれのクラブとゴルフバッグをやる。靴とボールは買え」
そんなこんなで千五百円の靴とロストボールを買い、前日は友だちの家に泊まってコンペに参加した。
当日は快晴、入念な素振りをし、生まれて初めて打ったティーショットはきれいにスライスしてよく飛んだ。「ナイスショット。テニスより簡単かもな」
「OBです」「なんで?」「コースアウト」
OBも知らずにコースに出たのだった。
コンペのスコアは百三十だった。空振りは一度もせず、ボールは五、六個なくした。「あんたはセンスがある。ちゃんと練習したら、すぐに百は切れる」と同行のメンバーに褒められた。
その日の帰り、車の中で友だちにいった。
「大の男が一日遊んで、五千円は安いな」
「五千円……? グリーンフィーは」
「なんや、それ」
「ゴルフ場に払う金」
「払うてへんけど……」
「しゃあない。おれがマスターに渡しとく。一万円もあったら足りるやろ」