落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「大人」。
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大人と書いて「たいじん」。『徳の高い立派な人』という意味だ。いわゆる「おとな」よりワンランクいや、それ以上の存在。「大人(おとな)」になって22年になるが、そろそろ「大人(たいじん)」と言われて良いのではないか、俺。後輩と地方の仕事に行く時など、ふと己の「大人(たいじん)」ぶりに気づきがち。
まず集合時間。私は必ず5分キッカリ、遅れて行くようにしている。デキる後輩は15分前には着いてるものだ。でもたまに「ピッタリに行けばいいや」と思ってる奴がいる。そこで私が時間ピッタリに着いてしまっては気まずい空気になるだろう。「オイ、もうちょっと早く来てろよな!」と小言のひとつも言いたくなるところだが、そんなことで怒って「なんて小さいヤツだ」なんて思われるのも癪だからジッと我慢。その我慢のストレスを考えれば、私がわざと5分遅れて行くのがベストじゃないか? そうだろ、みんな。
タクシーに乗るよね。まれに運転手さんが失礼な人でも「大人」は黙して語らずだ。支払いしても「ありがとうございます」も言わない。トランクを開けても荷物を取り出そうという素振りも見せず「早く行けよ」とばかりの様子。そら、大人もカチンとくるよね。当てつけにトランクの蓋を「バーン!」と思い切り閉める……のは3年前にもうやめたよ。今は逆にゆるーくふんわり、なんなら閉まらなくてもいいよ、と撫でるように。後のことはわからない。「パカパカしながら走りやがれ!」と思うけど、ちょっと怖くなってやっぱり二度閉めするよ。大人は安全第一だから。そうだろ、みんな。