黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する (写真=朝日新聞社)
黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する (写真=朝日新聞社)
この記事の写真をすべて見る
※写真はイメージです (Getty Images)
※写真はイメージです (Getty Images)

 ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は2019年に鑑賞した映画について。

*  *  *

 先週の夕方、仕事部屋でユーチューブの将棋対局を見ているところへ「ピーヨコちゃん」と、よめはんがやってきた。妙に機嫌がいい。わるい予感がする。

「映画に連れてったげる」

「そうですか……」

 よめはんは決して“いっしょに行こう”とはいわない。連れていって“あげる”だ。

「なにを見るんや」

「『ヒックとドラゴン』の最新作。今日から公開」

「それはよろしいね」

 わたしはいった。『ヒックとドラゴン』は第一作も第二作もよめはんと見ている(ドラゴンがかわいい)から“否”はないが、原稿の締切が迫っている。

「お誘いはうれしいけど、いま忙しいんや」

「あ、そう。ピヨコはいま、なにしてたん」

「将棋を見てたけど」

「忙しいのに遊んでたん」

「逃避です、つかのまの。映画はまたにしてくれんですかね」

「そういうわがまま勝手は却下します」

「承知しました。よろこんでお供します」

 ──で、橿原のショッピングモールの中にあるシネコンに行った。フードコートでパスタとたこ焼きを食したのち、ロビーに入ると、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』も公開の初日だった。

「おれ、こっちが見たい」

「約束がちがいます」

「『ヒックとドラゴン』は来週、つきあうから」

「来週の話をしたら鬼が笑います」

「ほな、ジャンケンしよ」

 わたしが勝ち、『スター・ウォーズ』のチケットを買った。夫婦割引で。

『スター・ウォーズ』シリーズの主要人物であるレイアを演じるキャリー・フィッシャーは2016年に急逝しているが、この最新作にどんな形で登場するか、わたしは興味をもって見た。その映像は過去の実写映像と3DCGを合成させて、レイアはみごとに蘇(よみがえ)り、不自然な感じはなかった。隣のよめはんはいつものごとく途中から寝てしまって話の筋はほとんど憶(おぼ)えておらず、あとで、あれはどうなった、こうなった、と訊(き)くから、DVDになったときにもういっぺん見るよういっておいた──。

次のページ