週刊朝日恒例の「歴史・時代小説ベスト10」。2019年の1位は今村翔吾さんの『八本目の槍』に決定しました。これまでの石田三成像を覆す一冊です。今村翔吾さんに作品について聞きました。
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──第1位のご感想は?
電話を頂いたときに思わず拳を握りしめました(笑)。昨年の2位も有り難かったですが、いつか1位を取りたいと思っていたので、むっちゃうれしいです。
──本作のアイデアはどこから来たのですか。
小学校の同級生と集まったときに、彼らと会わなかった期間の、僕の知らない経験や時間の重みがなんとなく匂ってきて、言葉で語らなくとも理解し合えるような感じがしたんです。そのとき、「そういう関係は戦国時代にもあるかもしれない」と。
──それが賤ケ岳の戦いで武勲をあげた、秀吉方の武将「七本槍」たちの小姓時代の関係性なんですね。
共に小姓時代を過ごしたからこそわかり合え、喧嘩しても翌日には仲直りしていたのが、大人になると、少しの行き違いが修復し難い関係に発展したり、そのまま一生の別れになったりする。それを描いたら面白いんじゃないか。一方で、石田三成を描きたいとずっと思っていたので、その二つが合体した感じですね。
──各章が「七本槍」それぞれを主体とした話となっていて、なおかつ三成も「主役」として描かれていますね。
三成にあまりいいイメージはないかもしれないですが、私の住む滋賀県では逆に強く支持されている。全国では悪すぎ、滋賀県では良すぎ。良いも悪いもある等身大の三成を描くには、共に過ごした「同級生たち」の視点こそが有効ではないかと考えました。
──構成は書く前から決めていたのでしょうか?
最後の市松(福島正則)の章以外は、だいたい決めていましたね。ただ難しいのは、7人それぞれを中心に各章を一つの作品としながら、なおかつ全体に、7品からなるコース料理のような、一貫したテーマを持たせなければならないこと。それにはやはり最終章が重要で、「頼むぞ! 市松」と、気合を入れてから執筆しました。でも小説って、真摯に向き合って作っていたら、決定的な何かを与えてくれるんですよ。最後にいいセリフが降りてきてくれて、「来たーっ」という感じでした。そういうときが一番楽しいです。