恩賜財団済生会は今回、東京都済生会中央病院を含め傘下の21の病院が統廃合の候補に名指しされた。済生会として11月27日、公立病院と公的病院を同じくくりで扱っている点や、実名で公表した点などを批判する意見書を出している。

 高木院長によると、厚労省に名指しされた影響がすでに出ている。来年入る予定だった職員が内定を辞退したのだ。患者からも、「この病院はなくなってしまうのか」といった不安の声が届いているという。

「医師や職員を採用するのが難しいなか、深刻な事態です。地方の病院でも、同じようなケースがあったと聞きました。使命感を持って毎日一生懸命働いてくれる職員が不安に感じているのを見ると、やるせない気持ちになります」

 高木院長は、病院側にも反省すべき点があったとする。

「公的病院は医療界で中心的な役割を果たしているのに、貢献度が十分に理解されていないように感じます。特に公的病院には開業医が集まる日本医師会のような団体がなく、全体として意見や主張をうまく発信できていなかった面があります。今回まず、公立病院と公的病院がやり玉に挙げられたのも、政治的な立場が弱かったことがあるはずです」

 高木院長は民間病院との役割分担や、バランスのとれた地域医療体制について議論することには賛成だという。

「公立、公的、民間の病院のどれかがいいとか、悪いとかという話ではありません。それぞれの病院や地域が抱える事情を踏まえ、果たすべき役割や機能をきちんと議論することが大事です。例えば公立病院が赤字経営なのに、ほかの病院で代替できる機能を担っている場合には、その機能を民間や、ほかの公立・公的病院に委ねた方がよいと思います。ただし、大きな負担を伴う統廃合を前提とはせず、その病院が受け持つ機能の転換や代替、縮小といったことから考えるべきです。本来こうした議論は、上から言われてやるものではありません。どんな機能を担うかは経営にも直結するので簡単ではないですが、きちんと向き合わなければ、公的病院だっていずれは淘汰されてしまいます」

 高木院長の言葉には地域医療に貢献してきたという自負と、このままではいけないという危機感が感じられた。
 
 自治体や病院関係者からの反発もあって、厚労省は「今回の公表は必ずしも再編を求めるものではない」などと、取り繕うとしている。だが、すでに病院名は公表され、来年9月までに再編案が都道府県ごとにまとめられる予定だ。医療費削減は必要だろうが、患者の命の“最後の砦”をどう守るかが問われている。

(本誌・池田正史)

※週刊朝日オンライン限定記事

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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