中小企業で働く私の知人(Aさん)は、これまで毎日のように1時間強の残業をしていた。入社したときから続けていたので、特に疑問も持たずに過ごしてきたが、昨年、「働き方改革」という言葉と残業規制強化の話をテレビで見て、「私がいつもしているのは『残業』で、お金を払ってもらうべきなんだ」と初めて気づいた。それまでは、1時間程度の自主的な「居残り作業」はタダ働きで当たり前だと思っていたそうだ。
Aさんは会社に残業代を請求したが全く相手にされず、職場は気まずい雰囲気になったという。その後、インターネットで知った誰でも加盟できる労働組合に参加して支援を受けたところ、過去2年分の残業代として約50万円強の支払いを受けた。「50万ですよ!」とAさんは喜んでいた。
この話にあるように1時間程度の残業だとタダ働きになっている職場はたくさんあるが、サービス残業は労働基準法違反の犯罪だということが認識されていないケースは多いという。
そこで思い出すのが、貸金業者に対する「過払い金」返還訴訟だ。法定の上限利率を超える高金利で借金して支払った利息のうち、上限利率を超える分は払い戻しを受けられるということを知らない人が大半だったが、弁護士事務所のテレビコマーシャルなどもあり、一気に認知度が高まった。
残業を残業と認識すらしなかったAさんが権利意識に目覚めたのは、「働き方改革」の効果だと言っても良いだろう。
今年4月に施行された改正労基法による残業時間の上限規制は、実は中小企業には適用されていない。来年4月から適用されるのだが、今後、中小企業労働者の関心が高まり、その結果、「過払い金」ならぬ「未払い残業代」請求訴訟が頻発するかもしれない。
しかし、その労働者の権利行使を制限する法律がある。それは、労働者の賃金債権(賃金を払えと請求する権利)に2年間の消滅時効を定める労働基準法だ。実は、債権の時効を定める「民法」が存在するが、そこでは、一般債権の消滅時効は10年とされる一方、賃金債権は特例として1年とされていた。これでは短すぎるので、労働者保護のための労基法では、それを2年に延ばすという特則を置いている。