崩壊した病院から助け出された人/トルコ・イスケンデルン(photo ロイター/アフロ)
崩壊した病院から助け出された人/トルコ・イスケンデルン(photo ロイター/アフロ)

 トルコ事情に詳しい同志社大学大学院の内藤正典教授は言う。

「パンケーキクラッシュは99年の地震の頃から問題になっていました」

 長年、トルコの建築には問題が指摘されてきたという。

「セメントの質自体が良くないと言われています。管理もよくなくて、亀裂が入ってしまうこともあります」(内藤教授)

 今回の地震では古い建物だけでなく、築10年の12階建てマンションも一瞬で崩壊した。耐震基準を満たしていると広告でアピールされていた。内藤教授はこう語る。

「2千万円以上の高額な住宅がいとも簡単に崩れたということで、手抜き工事への非難の声がトルコ国内で上がっています」

 この建物の建設業者は身柄を拘束されたと報じられた。現在、崩壊した建物の建設業者100人以上に逮捕状が出されているという。

■罰金を払えば違反容認

 さらに今注目されているのが、建築基準に違反しても罰金を払えば容認される「恩赦」政策だ。恩赦を受けたため、耐震基準を満たさない建物が倒壊したことも考えられるという。

 その恩赦政策が進められたのは、建設業者やエルドアン政権が利権を求めたためと報じられている。だが、内藤教授は「そうとは言い切れない」と言う。

「70年代からトルコは急速に人口が増えましたが、建設が追いつかず、住民が不法に場所を占拠する状況も発生しました。そこで政府は80年代に建築基準を満たさなくても住宅として認める恩赦政策を始めました」

 特に今回被災した南部は「伸び盛りの地域」で、南部シャンルウルファ県の合計特殊出生率は3.81に及ぶのだという。トルコ全体の合計特殊出生率1.7に比べて、人口増加のスピードが速いことがうかがえる。震源地に近い南部ガジアンテップはトルコ料理の名店が連なり、観光客が押し寄せる。ピスタチオの産地でもあり、発展が目覚ましいのだという。

 そうした経緯もあって、歴代の政権が恩赦を認めてきた。

「もちろん政権の人気取りの面もありますが、住民に求められた政策でもありました」(内藤教授)

 いずれにしても政府が危険に目をつぶった「人災」の側面は否定できない。(編集部・井上有紀子)

AERA 2023年2月27日号