林:外国の人にとって、由紀さんの透明で透き通った声ってめずらしいみたいですね。バーブラ・ストライサンドみたいな肉厚な声を聞いてる人にとって。
由紀:今の歌い手の方って、ほとんど地声で歌うんです。私のようにファルセット(喉の負担が小さい高音の発声法)をうまく使う人はほとんどいないんです。特にポップスの人は基本的に地声です。それで長く歌えないんじゃないかと思います。
林:もともと由紀さんは声帯がすごく細いんだそうですね。
由紀:ええ。私は小学校4年生ぐらいのときに風邪をこじらせて、それでも歌ったら、音声障害を起こして声が出なくなっちゃって、ひばり児童合唱団の先生にすすめられて、九品仏(東京・世田谷)のお医者さんに行ったんです。そこは声に関わるお仕事をしている人たちが通っているところで、「あなたの声帯はすごく薄い。調子が悪いときは無理に声を出さないようにして、この声帯を大事にしなさい」って言われたんです。それがいい意味での私のトラウマですね。
林:それが今までのご活躍を支えてきたんですね。女優さんをやってらっしゃるときは、声帯の使い方はどうしてるんですか。
由紀:舞台を初めて経験するときに、美空ひばりさんの映画を見たんです。ひばりさんのセリフの声を聞くと歌ってるの。歌う声でセリフを言ってるな、と思いました。それで私もそうしよう、と。
林:オペラと同じですね。イブニングドレスを着てお出になるわけですから、体形の維持なんかも……。
由紀:食生活とかも大変です。今は自分の家の中を歩く道すがらというか、たいして広くないんですけど、よく通るところにスクワット専用のいすが置いてあるんですよ。最近、流行ってるんです。
林:へえ~、そんなものがあるんですか。
由紀:あるんです、通販よ(笑)。だけどそんなぐらいしかできないんです。外側はもうヨレヨレよ(笑)。拒めるものは拒みたいけど、拒みきれないものもいっぱいあるじゃない? それは受け入れるしかないでしょ。
林:たばこもお酒も一切やらず、非常にストイックに暮らしてらっしゃるそうですね。
由紀:そうですね。日々の暮らしはあした歌うための準備です。
林:わあ~、素敵。
由紀:何を食べるかというお食事も、お風呂に入ったりシャンプーしたりするタイミングも、みんなあした歌うための準備ですね。
林:由紀さんが「自分に満足できなくなったら、自分で引導を渡す覚悟ができています」と言ったら、亡くなった二葉あき子先生(歌手)が「何言ってるのよ。私なんか入れ歯が取れたってみんな喜ぶんだから」とおっしゃったんでしょう?