多くのヒット曲を持ち、50年にわたり、第一線で活躍を続ける歌手、由紀さおりさん。歌うことから、母や姉など家族の話、これまで語られなかった結婚の話、さらに年を重ねることの楽しさについて、デビュー50年の道のりを振り返りながら、作家の林真理子さんとの対談でたっぷりと語りました。
* * *
林:お久しぶりです。まあ、素敵なお着物!
由紀:最初にこちらでお目にかかったとき(2008年8月)も着物を着てまいりましたので、今日もそうしようと思って着てまいりました。
林:覚えてます。素敵なお着物でした。これは江戸小紋ですか。
由紀:そうです。綸子ですね。
林:帯もすごく素敵。お着物は何枚ぐらいお持ちなんですか。
由紀:このところすごく増えました。
林:着物って、そろえ始めるとお金が果てしなく飛んでいきませんか。
由紀:でも、いただきものが多いんです。私の知り合いのおばさまが「着ない着物がいっぱいあるの。ちょっと着てちょうだいよ」と言って、どんどんくださるようになったんです。それを自分の寸法に整えたり、裾除けの色をちょっと変えたりと、自分仕様に直させていただいて着ています。呉服屋さんにも、「もうこれを織る人がいませんので、大事に着たほうがいいですよ」って言われたりして。
林:お着物は、ご自分でお召しになるんですか。
由紀:今日は着付けの方にお願いしました。でも、少しずつ自分でも着られるようになりました。お三味線と踊りのお稽古に行くときは自分で着ます。
林:お三味線と踊りもやってらっしゃるんですね。
由紀:この9月にGINZA SIXの地下の観世能楽堂で、デビューして50年の特別公演として「夢の女─蔦代という女─」という一人芝居をさせていただいたんです。原作は有吉佐和子先生の『芝桜』で。その稽古で、お三味線と踊りを始めたんです。踊りはデビューして何年かに花柳の名取にはなったんですけれど。
林:お芝居、都合が合わずうかがえなくて残念でした。見たかったです。
由紀:お芝居をして、踊って、お三味線を弾き、歌って……と、楽しかったですよ。お三味線、鼓、笛と太鼓と、みんな生の音でしょ。能舞台の空間はアコースティックですから、ものすごく響きがいいんですよ。
林:へぇ~。『芝桜』って芸者さんの話ですよね。
由紀:そうです。私はもともと、話術が巧みなお座敷のお姐さんたちに憧れてるんですよ。新橋のお姐さんとか赤坂のお姐さんとかに。一緒にあちこち連れてってもらったりするおつき合いもあって、私の公演でも皆さんがずらっと総見してくださったりするんですけれど、ああいうお姐さんたちが好きなの。
林:ええ、ええ。