石川:その意味で平成の30年間は、日本国憲法が用意した統治システムが初めて十全に作動した時期だと思います。天皇家からすれば、30年間成功したわけだから、この方向で持続可能な天皇制を作るしかないと考えているはずです。
御厨:現行の皇室典範上、皇位継承順位によって天皇は引き継がれていますが、秋篠宮さまが即位しないというような報道もありました。仮に万が一、悠仁さまも即位しないと言いだせばどうなるのか。そのあたりの議論も詰められていない。
石川:そもそも自発的な即位と自発的な退位を認めるのかも、天皇制の維持を考える意味では重要です。
御厨:天皇家の人数が少なくなり、最後は後継者が一人になる可能性もある。だから、天皇制が生き残るためには、女系、女性天皇にするか、男系にするかという判断基準を超越的に設けると、議論は進まなくなる。歴代首相でいえば、小泉純一郎政権時に女性天皇が有識者会議で認められたものの、直後に悠仁さまが生まれることになり、議論は沙汰止みになった。野田政権では女性宮家について検討したが、安倍晋三政権になって議論がパタッと止まってしまった。
石川:憲法の枠組みに適合する象徴とは何か。選挙制や能力制ではなく世襲制で制度設計されたのは、象徴の職を維持するためには、日本一の名家で育った人のみが醸し出しうる品位が必要とされたからでしょう。血がつながっているとか、男系であるということではなく、お育ちや気品に期待して世襲制にしている。そうなると、皇籍を離脱して一般国民として育った男子と、千代田のお城でお育ちになった女子という究極の選択になれば、これは明らかに女子をとるべきではないか。あくまでこれは極端な思考実験ですが、旧男子宮家を復活させるより女系を選択するということにならざるを得ないと思います。
御厨:女性天皇論の話が出たとき、みんなが安易に男女平等だからと言ったけど、男か女かと議論する枠組みではないものを見いださないとおそらく話は進まない。