石川:男女平等は、憲法14条の法の下の平等が天皇家にも当てはまるはずだという議論ですね。これは、天皇を公務員として雇っているという見方が前提です。公務員と同様に、憲法第3章の人権が天皇、皇族にも適用されて、14条も及ばなくてはいけないというものです。ところが、もう一つの有力な考え方がある。昭和の憲法学者である清宮四郎氏は、戦後の日本は天皇・皇族・一般国民の三つの身分からなると説明しました。「華族その他の貴族の制度は、これを認めない」と定める憲法14条2項によって、華族という旧憲法下の身分は廃止されたが、天皇・皇族という「家」の身分は、憲法第1章「天皇」によって維持された。この捉え方のほうが正確だと私も思います。そして、憲法第3章の「国民の権利及び義務」、また14条の平等条項は、一般国民にしか及ばないのです。もちろん、天皇も皇族も人間ですから、人間の尊厳という観点からすれば男女平等であるべきですが、日本国憲法では救えないんです。
御厨:憲法の立て付けが良くないんですよ。
石川:今の皇室典範では天皇家は自身たちでなんとか世継ぎを作っていかなければいけない。これはもはや男女の問題ではなく、「家」の問題です。もし次の象徴が準備できないとなれば、憲法第1章の改正論議になるわけで、天皇家にとっては危機的な状況になる。苦境に立っておられるのは間違いないです。その意味で、お父上である上皇さまの経験はすごく大事にされていると思われます。
御厨:ただ、象徴という意味において上皇さまの影響力は強く、そこで出てくるのが上皇と天皇の「二重象徴」の問題です。私は当時、上皇は皇居のご隠居様になるという言い方をしたが、何か新たなお務めを開発される可能性が非常に高い。たとえば、東日本大震災の復興。来年は復興10年目です。当時、来てくださった天皇陛下ご夫妻に、ここまで復興がなりましたというのをお見せしたいとなったとき、上皇さまご夫妻は断れないですよ。断る理由もない。公的な行為はなさらないのが前提であっても、おいでになれば当然、公的色彩を帯びます。そうなれば、二重象徴となる。