石川:人間を象徴にしたわけですから、それは避けられない問題ですね。天皇の「象徴としての行為」には、憲法3条の類推で、国事行為と同様に内閣の助言と承認が必要である、と解されてきましたが、天皇の身分から降りた上皇には内閣の助言と承認によるコントロールが及ばないということになる。むしろここからが上皇さまご夫妻の大活躍の場になると言えます。内閣に気兼ねない立場になって、ご自身の考えで全国行脚して講演して回るということも原理的には構わないはずなんですよね。

御厨:天皇家全体として影響力を保つために、当然、上皇さまは国民の前に現れるでしょう。現れていい自由を持ったわけですから。この先長い目で見たとき、上皇さまと上皇后さまのある種の政治性があぶり出されてくる可能性はあります。

石川:この先、天皇家がどう変わっていくか。注目を引いたのは、即位に伴う神事である大嘗祭について、秋篠宮さまが天皇家のサラリーでやれる範囲にするべきだと問題提起されたことです。秋篠宮さまは学習院大時代に、私のゼミの先生であり現在でも最も読まれている体系書を書かれた芦部信喜先生から直接講義を聴かれた方です。秋篠宮さまのご発言は、私には亡くなられた芦部先生の声に聞こえました。まさに、憲法が想定した象徴天皇制の中ではここにしか道はない、という方向性を語られたのだと思います。

御厨:上皇さまも、天皇の葬送儀礼である殯(もがり)などに関連する行事を軽くできないかというようなことをおっしゃっていた。

石川:政教分離の線はがちっと引かないといけない。憲法は20条3項で国の宗教的活動を一切禁止しているし、89条で宗教上の組織等に公金を支出することを禁止している。大嘗祭は皇室祭祀ですから、本当は国費を支出してはいけないし、公費を使って国や地方の公務員が大嘗祭に参加することも、実は違法な公金の支出になる可能性があります。憲法の下では、天皇家の内部でおやりになる分には構いませんということになっていますが、現在の大嘗祭はもはやそんなスケールではなくなっている。という意味で、秋篠宮発言は正論です。もっとも今、秋篠宮家には逆風が吹いていますが……。

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