すてきな笑顔が人柄を表している。
リチウムイオン電池を開発したとして、ノーベル化学賞に決まった旭化成名誉フェローの吉野彰さん(71)。10月14日には名城大(名古屋市)で受賞後初めての講義をした。受講する大学院生らから花束をもらって祝福されると、満面の笑みを見せた。
その後の記者会見では、ユーモア好きな吉野さんらしく、ノーベル賞の新法則「19年スパン説」を披露した。
その法則に基づくと、化学賞の受賞は19年前から決まっていたという。
吉野さんは故福井謙一・元京大教授の孫弟子に当たる。その福井氏は1981年にノーベル化学賞を日本人で初めて受賞した。それから19年後の2000年には白川英樹・筑波大名誉教授(83)が、電気を通すプラスチック「導電性高分子」の研究で化学賞を受賞した。白川氏の業績は吉野さんの研究を促し、19年後の今年受賞に至ったという。
もちろん19年間隔で化学賞がつながっているのは偶然だが、先輩たちの業績に敬意を表明しつつ、新法則として笑いを誘うのが吉野流だ。
これからさらに19年後に化学賞を受けるのはどんな研究かと問われると、「環境問題の解決にまともな答えを出した人」としている。リチウムイオン電池は、太陽光発電といった再生可能エネルギーを普及させるための蓄電システムとして期待されている。技術発展で環境問題を解決したいという吉野さんの願いが表れている。
こんな吉野さんが化学の世界に興味を持ったのは、小学生のとき担任教師が勧めてくれた本だった。英国人科学者ファラデーの著書『ロウソクの科学』を読んで、夢中になったという。京都大学工学部を卒業後は大学院で学んだ。旭化成に入り、電池技術の開発責任者などを歴任した。
リチウムイオン電池の基本構成となる方式を開発し、85年に特許を出願した。宮崎県延岡市にあった旭化成の試験場で、電池に衝撃を与える実験を繰り返し、発火しないことなど安全性を確認したという。受賞直後の10月9日の会見ではこう語っていた。