AIの活用が期待される分野はいろいろある。誤った手術や治療を防ぐほか、医薬品の開発、生活習慣病予防などにも役立つ。実用化されれば医療水準が一気に高まり、寿命が延びそうだ。患者側からも、AIによる安全な医療を要望する声が出ている。
数少ない成長分野とあって、大手電機メーカーなどは開発を強化している。内視鏡の分野ではオリンパスのほか、富士フイルムやNECなどがAIを使ったプログラムに取り組む。日立製作所やキヤノンメディカルシステムズは、CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴断層撮影装置)の分野に力を入れる。
ベンチャー企業も負けていない。東大発ベンチャーのエルピクセルは、脳のMRI画像からくも膜下出血の原因になる脳動脈瘤を検出するソフトを開発する。
AIを巡る国際競争は、すでに激しい。米グーグルなどは医療用の開発に注力している。自動運転技術で脚光を浴びる米半導体大手エヌビディアも、医療機器大手と共同研究している。
昭和大の工藤さんは、日本に強みがある分野だけに、開発にさらに力を入れるべきだと訴える。
「例えば内視鏡はオリンパスだけで世界シェアの約7割を占めます。日本の医師の診断能力も世界的にみて優秀。AIの能力を高めることができるのは、こうした蓄積があるからです。日本が世界で勝てる分野が少なくなっている中で、競争力のある大事な技術と言えます。うまく開発できれば、診断を受けに来る外国人も増えるはずです」
政府はAIやビッグデータを活用した、「AIホスピタルシステム」の構築を目指す。遠隔医療や検査ができるようになるもので、22年度末までに約10のモデル病院を指定し、運用を始める計画だ。
他の国も黙ってはいない。米国やドイツ、中国などもAIを経済成長の柱に据え、開発を急ぐ。(本誌・池田正史)
※週刊朝日 2019年10月11日号より抜粋