総務省が2017年にまとめた試算によると、AIや、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」の活用で、今後十数年間で経済規模が132兆円押し上げられる。

 ここで仕組みをおさらいしておこう。

 AIは、物事を学び、推論し、判断するといった脳の動きをコンピューターで再現する技術だ。言葉自体は1950年代と古くからあるが、ここにきて実用化が進んでいる。

 コンピューターが大量のデータを分析し一定の法則を見つけだす「機械学習」や、神経回路の仕組みをまねたプログラムで自動的に賢くなっていく「深層学習(ディープラーニング)」という技術が後押ししている。大量のデータを読み込み、どんな点に注目し判断すればいいのかを、勝手に学んでいくのだ。

 この勝手に賢くなるAIが、医師を手助けしている。効率的な治療ができるようになり、医療費の抑制も期待される。

 実用化が最も進んでいるのが、冒頭で紹介したような画像診断の分野だ。大量の画像データをもとに、病気であるかどうかを判断する。AIの性能は、学習させるデータの量や質が決め手だ。

 昭和大などのシステムが高い精度を実現できたのも、膨大な診断結果を学ばせたことが大きい。昭和大をはじめ、国立がん研究センター中央病院や東京医科歯科大学病院など5病院の専門医が協力。腫瘍性のポリープかどうかを判断した、約6万枚の画像を読み込ませた。

「AIに学ばせる画像は一枚一枚すべて、医師が病理診断との整合性を確認しました。さらに2人以上の内視鏡専門医が改めてダブルチェックを行いました。学習作業には約7年もかかりました」(同)

 大腸がんは増加傾向で、17年にがんで亡くなった人のうち、部位別では肺がんに次いで2番目に多かった。16年に新たに見つかったがんの中では最も多い。患者が増えた理由は、食生活の変化など様々な要因が挙げられている。

 従来の検査は大変だった。病変を見つけるには、内視鏡を肛門から差し込み、腹の中で複雑に折りたたまれた腸の中を探らなければならない。早期のものほど病変が小さく見つけにくい。見つかっても、転移リスクなど危険性を判断する必要がある。何カ所も組織を切り取るケースもあり、患者にとって負担だった。

次のページ