西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「捨てることで自由になる」。
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【ポイント】
(1)学問をするとさびしさに包まれてくる
(2)知識を溜め込んでいくと身動きができなくなる
(3)これからは捨てることでもっと自由になるべき
山口誓子さんの句に、
「学問のさびしさに堪へ炭をつぐ」
というものがあります。大学を出て20年ぐらい経った頃、この句を染めた手ぬぐいをいただきました。一目見て心に響き、表装して病院の外来ロビーにかざることにしました。私はこの句を見るたびになんとなく気が休まるのです。
思い起こすのは、医学部に進学して毎晩、医学書に向き合っていたときのことです。まだ晩酌の習慣はなかったので、近くの食堂でさっさと夕食を済ますと、下宿に帰って勉強しました。医学は初めて接する学問でしたから、興味津々で楽しかったのですが、教科書を読み進めるうちに、そこはかとないさびしさに包まれてくるのです。
あれは、何だったのでしょうか。膨大で深淵な知の大海に乗り出すときの、恐れのようなものだったのでしょうか。
そういう気持ちにおそわれると、私は財布をポケットに入れて、夜の街に出かけるのです。近くには学生相手のトリス・バーや屋台のおでん屋さんがあって、私の心を癒やしてくれました。
そういう経験がありましたから、「学問のさびしさ」の句が心に響いたのです。でも、この句を病院にかざったときには、「学問のさびしさ」の正体については、まだわかりませんでした。
その疑問が氷解したのは、何年かして『老子』の第四十八章に出会ってからです。
学を為せば日に益(ま)し
道を為せば日に損す
之を損し又(ま)た損して
以て無為に至る
無為にして為さざる無し