ノルウェーのトップ・ギタリスト、ベルゲンの「Nattjazz」でのライヴ
Crime Scene / Terje Rypdal
1970年代の初期からECMに関わり、現在に至るまでこのレーベルの成長と共にキャリアを重ね続けてきたノルウェーのトップ・ギタリストの新作である。テリエ・リピダルは昨年5月、新しいプロジェクトを引っ提げて、ベルゲンの「Nattjazz」に出演。本作はその時のステージを収めたライヴ・アルバムだ。
実はこのパフォーマンス、ぼくは生で観ている。同祭最大の会場の最前列で、カメラを構えながら生リピダルを初めて体験した。同国ジャズ・ミュージシャンの代表格としてはヤン・ガルバレクが数回来日公演を行っているのに対して、リピダルは同格であるにもかかわらず、おそらく日本にやってきたことがない。大物なのに今後も来日公演の実現性が薄い、という典型的なヨーロピアン・アーティストゆえに、現地に乗り込むか他の欧州公演を狙うのが数少ない方法なのだ。この時ECMがレコーディングしているとは知らなかったので、とにかく目の前で繰り広げられるすべての情報をキャッチしてやろうと、ステージに集中した。それが今回アルバム化されたのは、多くの人々にこの独創的なサウンドに触れてもらえる意味で、個人的にもうれしく思っている。
本作は公演地を拠点に活躍するベルゲン・ビッグ・バンドとの共演作。近年はカーリン・クローグとの共演作やジョン・コルトレーン・プロジェクトなどで、その実力が知られてきたノルウェー屈指の大編成集団だ。ヴォイス・サンプリングなどを加えて、連続的に進行するプログラムは、実に壮大でドラマティックな楽想で構築されている。スライドバーやアームを効果的に使用し、他の誰でもないギター音を生みだすリピダルは、時にロック調のヘヴィーなプレイでバンドを強力に牽引する。古くからの音楽仲間であるパレ・ミッケルボルグが、準主役としてマイルス・デイヴィスを想起させるプレイで貢献。実際に目撃した視覚情報を加えると、ミッケルボルグが定位置の舞台右手から徐々に中央へ寄り、リピダルとの2ショット状態になったところでクライマックスを現出。このステージ最大のカタルシスを巻き起こしたのだった。
今ぼくはドイツ、メールスで本稿を執筆している。今夜テリエ・リピダル&BBBはここ「メールス・フェスティヴァル」に出演。新作発売直後のタイミングで、ちょうど1年前のあの感動を再びもたらしてくれるのは間違いない。
【収録曲一覧】
1. Clint - The Menace
2. Prime Suspects
3. Don Rypero
4. Suspicious Behaviour
5. The Good Cop
6. Is That A Fact
7. Parli Con Me?!
8. The Criminals
9. Action
10. One Of Those
11. It’s Not Been Written Yet
12. Investigation
13. A Minor Incident
14. Crime Solved
テリエ・リピダル:Terje Rypdal(g) (allmusic.comへリンクします)
パレ・ミッケルボルグ:Palle Mikkelborg(tp)
ストーレ・ストーロッケン:Stale Storlokken(org)
ベルゲン・ビッグ・バンド:Bergen Big Band
オラヴ・ダーレ:Olav Dale(fl,piccolo,b-cl,dir)
2009年5月ノルウェー、ベルゲン録音