50年前に思い描いた未来予想図とは、まったく違う場所にいる。俳優・小倉久寛さんが10代の頃、「役者になろう」などと思った瞬間は一度もない。大学4年のとき、中村雅俊さん主演の連続ドラマ「俺たちの祭」を観たことが、芸能界に入るきっかけになった。
「ごく普通の勤め人になろうと就職活動をしていたときに、劇団を舞台にした『俺たち~』シリーズの最新作が始まったんです。稽古して、酒場で盛り上がって、アルバイトで生計を立てる人たちを観て、単純に、『楽しそうだな』と思った。雅俊さんのファンということもあり、劇団員を目指すことにしたんです(笑)」
初めて観た舞台が、劇団「大江戸新喜劇」の旗揚げ公演。そこに現在の盟友・三宅裕司さんの姿があった。
「面白くて、すらっと足が長くて、『この人、格好良くて面白いなんてすごいな』と思って、即入団を決めました。口にこそ出さないけれど、『俺についてくれば、なんとかしてやるよ』という空気があったんです。その1年後に、『新しく劇団を作るから、お前も来るか?』と誘われて」
7人で作ったのが、スーパー・エキセントリック・シアター(SET)だった。今から40年前のことだ。
「三宅さんの演出通りにやれば、お客さんが喜んで、大笑いしてくれた。劇団旗揚げから何年かすると、テレビ、ラジオのお仕事をいただけるようになって、それに伴いお客さんがグンと増えました。30歳でアルバイトをやめることができて、『ひょっとして、この世界で生きていけるのかな』と。そんなことも思いました」
とはいえ、劇団が40年続いた今も、仕事に対する不安はずっとある。
「だいたいにおいてネガティブなんです。心配ばっかりしている。本番の近くになると、『はー、もうダメだ』ばっかり言っているらしい(笑)」
来月、65歳の誕生日を迎える。外見だけなら、40歳ぐらいから時が止まっているようにも見えるが。
「いや、ちゃんと老けてますよ。若い頃の写真を見ると、それなりに若いんです(笑)。ただ、体力が落ちている気はそんなにしない。劇団には20代の子もいるし、一緒に騒げるのは幸せなことだなと思います」