早期にがんを見つけると、治療の副作用に苦しんだうえ多額の費用がかかる可能性もある。一部の乳がんも当てはまるといい、名郷さんは警鐘を鳴らす。
「検診で乳がんが見つかった人は、検診以外で見つかった人より別のがんによる死亡率が2.42倍高いというデータがあります。抗がん剤や放射線治療が行われたために、別のがんが増える危険性もあるのです」
これでは何のためのがん検診なのかと思えてくるが、受けておいたほうがいいものもある。中原さん、名郷さんともに勧めるのが大腸がんと子宮頸がんの検診だ。心配な人は受けてみよう。
早期の脳梗塞を見つけるために脳MRI(磁気共鳴断層撮影)の検査を受ける人もいる。言語障害や手足のまひなどの症状がない「無症候性脳梗塞」を見つけられるというが、名郷さんは否定的だ。
「MRIを撮っても脳梗塞は予防できません。無症候性脳梗塞は70代で3割、80代で4~5割の頻度で見つかります。診断された人はどんな治療を受けるのかといえば、血液をサラサラにするためにアスピリンを飲まされます。そうすると脳出血や消化管出血の危険性が、脳梗塞の予防効果を上回ります。未破裂動脈瘤(りゅう)を見つけるのはいいのですが、小さいものは経過観察になります。患者さんは不安と憂鬱(ゆううつ)にさいなまれて日々を過ごすことになります。検査のメリットばかりでなく、デメリットにも目を向けたほうがいいと思います」
医療技術が飛躍的に進歩したことで、発見が遅れたがんも克服されるようになった。本当に役立つ健診やがん検診を、私たちが見極めるべき時代になっている。(本誌・亀井洋志)
※週刊朝日 2019年9月6日号