三回表2死一、二塁、履正社の井上に3点本塁打を打たれ、打球の方向を見る星稜の奥川(C)朝日新聞社
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三回表2死一、二塁、履正社の井上に3点本塁打を打たれ、打球の方向を見る星稜の奥川(C)朝日新聞社
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閉会式で整列し、涙ぐむ星稜の奥川(C)朝日新聞社
閉会式で整列し、涙ぐむ星稜の奥川(C)朝日新聞社
試合終了後、履正社の選手と健闘をたたえ合う星稜の山瀬(左)と奥川(右端)(C)朝日新聞社
試合終了後、履正社の選手と健闘をたたえ合う星稜の山瀬(左)と奥川(右端)(C)朝日新聞社
8月26日に発売される「週刊朝日増刊 甲子園Heroes 」
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「必笑」を掲げるチームは、最後の夏、一番よく泣いた。

「負けたけど、いいゲームができた。本当に楽しくて、最後にいい相手と試合ができてよかった。笑顔を崩したくなかった」

 今大会のナンバー1投手と言われる星稜のエース・奥川恭伸は、試合終了後、こう振り返った。

 第101回全国高校野球選手権大会の決勝は、履正社(大阪)が星稜(石川)を5―3で下し、初優勝を果たした。奥川擁する星稜は惜しくも頂点には届かなかった。

「悪くないフォアボールだった」

 奥川のボールを受ける捕手の山瀬慎之助主将は、四球からピンチを招いた3回について聞かれると、こう答えた。

 3回表、奥川は2死から連続四球。

「攻めにいった結果だった」(山瀬)

 しかし、強い攻めの気持ちが手元を狂わせたか。

 ランナー1、2塁となった後、4番の井上広大に、初球のスライダーをバックスクリーン左に運ばれた。

痛い3失点だった。

「失投だった」と奥川。捕手の山瀬も、「低めのスライダーを要求していたが、球が浮いてしまった」と悔やんだ。

 4番の一振りで球場の雰囲気は変わった。

 その後、7回裏に星稜が同点に追いついたが、8回表に2点を勝ち越され、そのまま試合は終了した。

 調子は良くなかった。疲労もあった。だが、「相手も同じ条件」と、奥川に言い訳はなかった。

 決勝は履正社から11安打を浴び、苦しい展開が続いた。それでも、最後まで奥川はマウンド上で笑っていた。3点本塁打を許した履正社の4番・井上との対戦も笑みがこぼれた。本塁打を打たれた後の3打席は三振、三振、三ゴロときっちり借りを返した。

 試合終了後も、報道陣への質問に悔しさをにじませながらも淡々と答えた。

「やすー! よく頑張った!」

 閉会式直前、ベンチに戻る手前で、スタンドから、こう声をかけられた。

 これまで支えてくれた知人だったのだろうか。奥川は、笑顔から一転、人目につかないベンチで、唇を噛み締めながら、こらえきれず、泣いていた。閉会式でも涙はとまらなかった。

 奥川始め、主将の山瀬ら、星稜メンバーの涙もとまらなかった。

「ありがとう」

 チームメンバーそれぞれが、肩をたたき合い、がっちりと握手をした。

「この仲間と野球ができて幸せ」(奥川)

 春夏を通じて初優勝を目指し、石川県勢として24年ぶりの夏の決勝に進み、どこよりも長く笑っていたチームは、最後、どこよりも泣いていた。

(本誌・田中将介)