不動産会社に勤務する落合勝さん(仮名・59歳)は、近視用の眼鏡を新調しようと7年ぶりに眼鏡店を訪れた。視力を計測した店員から「だいぶ視力が落ちているようです」と指摘されたため、眼科を受診。両眼ともに白内障と診断された。
落合さんは言う。
「医師から『かなり前から見えづらかったはず』と言われました。なんとなく道路の標識が見づらいとか、老眼が進んだかなと思うことはありましたが、極端に見えなくなったようには感じていませんでした」
白内障は、カメラのレンズの役割を果たしている水晶体が濁り、ものが見えにくくなる病気だ。加齢とともに患者数が増加する代表的な病気の一つで、60代で66~83%、70代で84~97%、80代以上になれば100%発症する。眼がかすむ、見づらい、まぶしいといった「見え方の異常」で自覚しやすいとされているが、神田眼科診療所(東京都)院長の矢島寿広医師はこう話す。
「水晶体の濁りは突然生じるのではなく、じわじわと進行していくので、変化がわかりづらい。自分では気づかないまま、職場の定期検診や眼鏡店で指摘されたり、運転免許を更新する際に視力検査が通過できなくて、受診してくるケースが少なくありません」
加齢とともに増える眼の病気のうち、日本における中途失明原因第1位の緑内障は視野の一部が欠ける、加齢黄斑変性は視野の中心がゆがむなど、いずれも見え方に異常が表れるが、自分では気づきにくい。
「白内障同様、徐々に進行するということもありますが、片眼だけに症状が出ることが多く、もう片方の眼で見えづらい部分を補うことができるため、何とか見えてしまうのです。とくに緑内障は気づかないまま過ごしている人が多く、初期段階で受診してくる人はほとんどいません。『見え方がおかしい』と自覚して受診するころにはかなり進行していて、通常の視野の4分の1程度しか見えなくなっている人もいます」(矢島医師)
一方、「後部硝子体剥離」は、網膜にくっついているゼリー状の硝子体が加齢によって縮んで剥がれてしまう加齢変化の一つで、眼の前に小さなごみのようなものが見える「飛蚊症」という特徴的な症状が表れる。飛蚊症の9割くらいは加齢による心配のないものだが、網膜裂孔や網膜剥離といった重篤な病気を引き起こすものもある。矢島医師はこう話す。