野尻哲史(のじり・さとし)/1959年、岐阜県生まれ。2019年5月から、運用・移住・仕事など多面的に退職後のお金との向き合い方を発信するフィンウェル研究所の代表。主な著書に『定年後のお金』(講談社+α新書)、『脱老後難民』(日本経済新聞出版社)など (撮影/写真部・掛 祥葉子)
野尻哲史(のじり・さとし)/1959年、岐阜県生まれ。2019年5月から、運用・移住・仕事など多面的に退職後のお金との向き合い方を発信するフィンウェル研究所の代表。主な著書に『定年後のお金』(講談社+α新書)、『脱老後難民』(日本経済新聞出版社)など (撮影/写真部・掛 祥葉子)
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年齢別の認知症有病率の推移 (週刊朝日2019年8月9日号より)
年齢別の認知症有病率の推移 (週刊朝日2019年8月9日号より)

 フィンウェル研究所代表の野尻哲史さんが、「定年後の生活」について綴る「夫婦95歳までのお金との向き合い方」。今回は「半数が認知症って怖くない?」。

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 退職後の生活のなかで医療や介護の費用は大きな負担になってきます。これは単に自分の医療や介護の負担というだけでなく、まだ存命の親の介護や医療の負担も合わせて、大きくのしかかってくることでもあります。

 寿命が延びるなか、老老介護といった言葉が普通に使われるようになってきたことは実感できるところですが、特に認知症になったらと考えるとちょっと心配の度合いは大きくなりますよね。

 私は金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループのメンバーとして「高齢社会における金融サービス」の議論を半年間させていただきました。そのなかでやはり大きな課題は認知症でしたが、女性は80代後半になると44%が認知症という統計には驚愕しました。また2012年の65歳以上の認知症患者数は462万人で、記憶などの能力が低下している状態である軽度認知障害の方はさらに400万人に上り、65歳以上の4人に1人は何らかの認知・判断能力の低下の問題を抱えているとのことでした。そして認知症の人の数は当然のごとく増加し、25年には700万人に達するという推計も出されました。

 ただ少し冷静になって、認知症の専門医の話を聞くと、一言で認知症といってもその程度には大きなばらつきがあることもわかりました。そう、だんだん色合いが薄くなったり、濃くなったりするグラデーションのようなものだということです。

 例えば、金融取引でも「銀行で預金を引き出すこと」に支障はないけれど、「有価証券のリスクはよくわからない」とか、「銀行で送金はできる」けど「相続といったことは十分に理解できない」といったように、できることとできないことの差があるということです。

 しかしこの状況は日々変わっていく可能性があります。どう変わって、今どういった状況なのかを理解しながら老親の金融取引の面倒をみることは、なかなか難しいことです。まして遠隔地に住んでいれば、なおさらその状況はわからないはずです。

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