幼い頃、夜に母と一緒にバス停に並ぶと、高い確率で酔っ払いに絡まれた。「きれいだねぇ」などと、しつこく母に話しかけるオジサン。子どもがいるのに、いや、いるからか、安心してベタベタしてくる。そういう時、母は絶対に男と目を合わせず世界を閉じ、私の手を力強く握ってきた。酔っ払いには軽いお遊び。でもそれは、女だからこんな目にあうんだね、と5歳児にでもわかる方法の屈辱だった。
暴力は、時に笑いながら行われることを、私たちは子どもの頃から経験的に知っている。やっている側の気分の軽さに合わせて、一緒に笑うことも求められてきた。でも、お笑いで、それをやっちゃ終わりでしょ。
先の友人は言った。「怖い物見たさで、つい目が離せないよ」。確かに、これは見物かもしれない。全てのパワハラ告発は、きっと自分にブーメランのように戻ってくるだろう。パワハラで笑わせてきた芸人たちによるパワハラ告発。芸人なら「冗談」と「本気」の区別がつくものだとは言うけれど、もう随分前に、それがつかなくなってしまっていたのが、吉本のお笑いだったんじゃないだろうか。
※週刊朝日 2019年8月9日号