北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
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イラスト/田房永子
イラスト/田房永子

 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は吉本興業のパワハラ問題について。

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 男たちが何故泣いているのか。何故、これが連日の大ニュースなのか。遠い国の遠いニュースを見ているような吉本パワハラ問題。

「男の#MeTooは吉本だったんだね」。友人からLINEが届いた。なるほどね、と思う。実名で告発し、なかったことにしないというハリウッドの女性たちの決意が拓いた#MeTooだが、日本男性の#MeTooは吉本か。とはいえ「宮迫を信じる!」な#WithYouにも、「俺もやられた!」な#MeTooにも、全く心動かされないのは、パワハラやセクハラで笑いをとってきた人たちによるパワハラ告発など、結局は男の覇権争いにしか見えないからだろう。

 ガハハハハ。いつからか、テレビの中のお笑い芸人たちの笑い声が受け入れられなくなった。容姿や年齢、セクシュアリティーを嘲笑したり、風俗の話をニタニタした顔で聞かされるお笑いをうっかり観てしまった時のダメージは大きい。

 1年ほど前、知人がネットテレビにゲスト出演した。今回、率先して幹部に声をあげたという加藤浩次さんがMCを務める番組で、未成年への性暴力でテレビから消えた相方との共演だ。番組の中で、MCの加藤さんは酒を飲み続け泥酔し、ゲストの女性に「クソババア!」などと思う存分罵る。一方、相方は酒を飲まず、女性をフォローする役割に徹する。知人はその番組に出てから心身のバランスを崩した。

 この番組の件はネットで少し話題になっていたが、「加藤の芸(激しいらしい)を知らないで出たほうが悪い」「バラエティーに出るなら覚悟しろ」という声も大きく、加藤さんのキャリアに何の影響もない“小さな出来事”だった。1年前のこの問題を、私はずっと引きずっている。あの時、「お笑い」の底が抜けたと思ったのだ。

 酔っ払った男性が女性を罵倒する。いったいこれは、「面白い」ことなんだろうか。

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