飲みに行った店で、女の子から、わたしの名前をフルネームで小説に使って欲しい、といわれることがたまにある。「どんな役でもええんか」と訊くと、「なんでもいいよ。犯人でも被害者でも」というから、ブルセラショップでパンツを売る女子高生にしたら……、どえらい怒ってました。
また、ほかの店で美人ママにリクエストされ、腐ってぶよぶよになった溺死体にしたら……、出禁になりました。
そう、ものかきたるもの、なにごとも鵜呑みにしてはいけない(ちなみに男は怒らない。粋がって登場したとたん、タコ殴りされるようなチンピラ役はよろこばれたりする)。
ついでながら、キタやミナミのスナックで、同じ年格好のママにいわれることがある。「わたしをモデルにして書いたらおもしろいよ。すごい波瀾万丈なんやから」
ハランバンジョー……、カントリー楽器のバンジョーを思い描くうちにママの独演会がはじまる。本人にとっては数奇な人生かもしれないが、基本は自慢話だから、まるでおもしろくない。誰かとめてくれんかなと思うが、他の客は機嫌よくカラオケをしている。
我ら団塊の世代、語りたいひとはどんどん増えるのだろう。
※週刊朝日 2019年8月9日号