イラスト/阿部結
イラスト/阿部結

 SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機さんの『週刊朝日』連載、『大センセイの大魂嘆(だいこんたん)!』。今回のテーマは「携帯ショップにて」。

*  *  *

 噂には聞いていたが、平日の携帯ショップは「高齢者のためのスマホ教室」の様相を呈している。

 大センセイ、所用があって近所の携帯ショップに出かけたのだが、開店直後にもかかわらず、すでに窓口はご老人方に占拠されている。順番を待ちながら窓口の会話に耳を傾けると……。

「こないだ買ったスマホですけどね、スイッチがないんですよ、スイッチが」
「オレは電話だけかけられればいいの。メールとかそういうのはいらないの」
「パスワードなんてもう忘れちゃったよ、あはは」

 こうした質問やらクレームやらぼやきやらに、若い店員さんたちが懇切丁寧な対応をしている。若い世代がご老人方にこんなに手を焼きながら、ご老人方の年金生活を支えているのかと思うと複雑な心境になる。

 待つことおよそ一時間。ようやく順番が回ってきた。

 実を言うとこの日、大センセイはガラケーからスマホへの機種変更をしに行ったのだった。いまごろ? という御仁には、「先憂後楽という言葉を知っておるか」とだけ言っておこう。

 大センセイ、なるべく若者に迷惑をかけずに変更手続きをしたいと思ったが、スマホの契約は摩訶不思議。いったい自分が何を買おうとしているのか、どんどん分からなくなっていく。

 最初、最新型を薦められたが、あまりにも高いのでもうちょっと安いのにしてほしいと言うと、若い店員さんがこう言うのである。

「一世代前の機種ですとお安くできますが、その場合、携帯電話も一緒にご契約いただくことになります」

 いや、今日はガラケーとお別れする日なのね。まだ使えるし、一度も故障したことのないガラケー君を捨てる覚悟できたわけですよ。だから、新しいガラケーなんていらないんです。

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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