ヴォイジャー/エリック・ハーランド
ヴォイジャー/エリック・ハーランド写真・図版(1枚目)| 『ヴォイジャー/エリック・ハーランド』
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米国ジャズ・ドラムス界のトップランナー
Voyager / Eric Harland

 数年前から気になっていたドラマーである。一昨年はチャールス・ロイド・グループの来日公演で、昨年はデイヴ・ホランドがリーダーのモンタレー・クァルテットをバンクーバー・ジャズ・フェスティヴァルで生鑑賞した。アルバムでは両者に加え、ジョシュア・レッドマン、カート・ローゼンウィンケル、SFジャズ・コレクティヴ等の話題作に参加。エリック・ハーランドという名前が現代ジャズ・シーンを彩る数多くの重要ユニットに関わっていることは、すなわちキー・パーソンであることを意味する。本年度米「ダウンビート」国際批評家投票のドラムス部門“ライジング・スター”で、首位に輝いたのもその証しと言えよう。

 テキサス州ヒューストン出身の33歳。高校時代から音楽活動を始めて、在学中にウイントン・マルサリスの激励を受け、奨学金を得てマンハッタン音楽院で学んだ。8年前に「ヴィレッジ・ヴァンガード」出演中のハーランドを観たロイドが、「(以前のレギュラー・ドラマーだった亡き)ビリー・ヒギンズが届けてくれた」と、自分のグループに招いたエピソードが泣かせる。

 本作はほとんど同世代だと思われる面々を率いたパリの「サンサイド・クラブ」での実況録音で、これがハーランドの初リーダー・アルバムとなる。2曲を除くすべてが自作であり、その書法は楽器編成とメンバーの個人技を活かしたもの。またドラム独奏の#5を接着剤として#4~#6(計25分)をメドレーにする流れには、作曲家に求められる優れた構成力も感じられる。いわゆるルーティン的なソロ回しではなく、曲展開の各場面における適材適所としてソロイストをフィーチャーするのも、旧来のクインテット編成の定石とは異なり現代的だ。

 先頃リリースされたリーダー作に参加したハーランドへの返礼の形となったスミスに関しては、ロイドやクリス・ポッター(モンタレー・クァルテット)といったテナーサックス奏者との共演歴があるハーランドだけに、持てる力を存分に発揮する空間の演出が巧み。ブランフォード・マルサリス~ジェフ・ワッツにも似た理想的なサックス&ドラムスの関係を、サム・リヴァース作曲の#9で聴くことができる。近年続々と力量豊かな人材が登場する米国ジャズ・ドラムス界にあって、トップ・ランナーの1人が遂に頼もしいリーダーシップをアピールした待望の作品だ。

【収録曲一覧】
1. Treachery
2. Intermezzo 1
3. Turn Signal
4. Voyager
5. Intermezzo 2
6. Development
7. Eclipse
8. Intermezzo 3
9. Cyclic Episode
10. Get Your Hopes Up

エリック・ハーランド:Eric Harland(ds) (allmusic.comへリンクします)
ウォルター・スミス3世:Walter Smith III(ts)
ジュリアン・レイジ:Julian Lage(g)
テイラー・アイグスティ:Taylor Eigsti(p)

2008年10月パリ録音

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