英語にスペイン語、ポルトガル語が交じった曲によるアルバム。英語以外のポップスの拡大を意図したマドンナの意欲のほどがうかがえる。ほかにもモロッコ、インドなど各国の大衆歌謡や民族音楽の要素とヒップ・ホップ系のトラップ・ビートを融合させ、独自の解釈による編曲、演奏展開を見せているのが斬新だ。
そんな音楽的な側面の一方で、マドンナの意思、主張を明確に伝える歌詞が見逃せない。それこそ本作でのもう一つの大きな話題である。デビュー以来、女性への差別、偏見などをテーマにした曲を積極的に手掛け、批判を浴び、論争を巻き起こしてきた。過激な表現や写真集の発表などもそうしたことに由来する。
ことに2001年9・11の同時多発テロ事件、03年のイラクへの侵攻、アメリカの現実などを背景に、『アメリカン・ライフ』(03年)以来、社会的で政治色濃い曲を多く手掛けるようになった。
『マダム X』の「キラーズ・フー・アー・パーティーイング」。ギターやプログラミングによる演奏は、ファドからの影響を物語る。そのうえで性やLGBTへの差別、貧困など、現代の現実を見つめ、自身に問いかける。“人々をカテゴリーに入れたりラベル付けしたりすることで自分を防御しようとしている人たちがいる。私はそんなあなたたちの前に立ちはだかって、攻撃を真っ向から受けるわ~誰かが苦しんでいるなら、その苦しみを私も感じる。一緒に苦しむわ、という団結の行為なの”とマドンナは伝える。
「ゴッド・コントロール」「アイ・ライズ」は、いずれも解決のめどが立たないアメリカの銃規制問題をテーマにした歌だ。前者はピアノをバックにした前半部に、やがて聖歌隊のコーラスが加わる。ディスコでのにぎわい、銃乱射の場面と犠牲者が映し出されるMVを見ればこの曲の意図がわかるはずだ。後者は18年2月14日、米フロリダ州マージョリー・ストーンマン・ダグラス高校での銃乱射事件で生き延び、銃規制に立ち上がったエマ・ゴンザレスのスピーチにはじまる。“私たちは立ち上がる”と伝える高揚感あふれる曲だ。
ピアノをバックにした歌からヘヴィーなファンク調となり、歌声をエフェクターで加工した“アート・ポップ”志向による「ダーク・バレエ」。ジャンヌ・ダルクへの共感、称賛を描いた歌は、“闘い”続けてきたマドンナの姿と重なる。“でもいまだに闘いは終わっていない。以前と同じ闘いが続いていると感じている”と自身で語る。
斬新な音楽展開も大衆の“一歩”ではなく“半歩”先をゆく。ポップスに不可欠な娯楽的な要素も織り込みながら、明確に意思を表明してみせる。本作に聞きほれながら、そのしたたかさに舌を巻く。(音楽評論家・小倉エージ)