マドンナが4年ぶりにニュー・アルバム『マダム X』を発表した。タイトルは、マドンナが10代の頃にダンスを師事したマーサ・グレアムに命名されたニック・ネーム。学校では常にイメージ、アイデンティティーを改めていたマドンナは、マーサにとってミステリアスな存在だったことに由来するという。
本作のテーマは“マダムXはスパイ/世界中を旅し/身元を変え続け/自由のために闘っている”とし、様々な人格を演じるもの。その背景に現代社会がのぞいて見える。注目すべき話題のひとつはマドンナが積極的にワールド・ミュージックにアプローチしていることだ。
そもそものきっかけはアフリカから養子に迎えた次男のデヴィッド・バンダが、ポルトガルのサッカー・リーグ、ベンフィカの下部組織に入団し、2年前にマドンナ自身もリスボンに移住したことだ。現地で耳にした、ポルトガルの大衆歌謡のファド、かつてポルトガルが領主国だったアフリカ西部のカボベルデ発祥のモルナ、ポルトガル語文化圏に属するブラジルのサンバなどに刺激と影響を受けたという。
アルバムの幕開けを飾るのは先行シングルとして発表された「メデジン」。コロンビアのスーパースターのマルーマと共演したもので、レゲエにラテン的要素を加味したスペイン語のヒップ・ホップ音楽のレゲトン・スタイルによる。甘いマドンナの歌声に対し、色男ぶるマルーマ。英語、スペイン語が混在した軽快な曲だ。
アトランタ出身ラッパーのクエイヴォとの共演の「フューチャー」も、レゲエのダンスホール的なスタイル。ミシシッピ出身スウェイ・リーとの共演による「クレイヴ」は、生ギターとプログラミングによるトラップ・ビートの組み合わせが絶妙なバラード曲。濃厚な求愛の歌なのもマドンナらしい。
カボベルデの女性パーカッション・グループとの共演による「バトゥーカ」。プリミティヴな響きによる打楽器の“バトゥーカ”の演奏に、ドラムにトラップ・ビートの要素を加味。コール&レスポンス・スタイルの歌とコーラスのアンサンブルも聞きものだ。本作でのハイライト曲のひとつで、抑圧者への抵抗の意思がうかがえる。