一方、盧武鉉と共同で弁護士事務所を開いていた文在寅(ムン・ジェイン)が2017年から大統領になり、人権弁護士だった彼も「私は人権弁護士になるつもりはなかった。ただ自分たちに依頼された事件から逃げることなく、依頼人の言葉に共感しながら一所懸命に弁論していたら、いつのまにか人権弁護士になっていた」と語っている通り、拷問が横行する韓国情報界が人権弁護士を必要としたために、やむなく立ち上がらざるを得なかったのである。
こうして盧武鉉と文在寅が活動の半径を広げてゆき、情報課の刑事に常に尾行される中、弁護士事務所が労働者人権センターのようになって反「軍事独裁」闘争の拠点になった。その頃、大学街では連日反政府デモがおこなわれ、大学のキャンパスは常に催涙弾の刺激臭に包まれていた。
ところが1987年1月14日に、釜山出身のソウル大学生・朴鍾哲(パク・ジョンチョル)が警察で取り調べ中に拷問で死亡する事件が起こった! この事件も、ドキュメンタリー映画『1987、ある闘いの真実』に描かれ、わずか1カ月で観客動員700万人を超えた。盧武鉉と文在寅はこの学生を追悼する会を準備して警察に連行されながら、6月10日から盧武鉉と文在寅の二人が設立した釜山民主市民協議会が中心となって民主化運動を全国的に展開し、およそ1カ月にわたって韓国全土で500万人余りが参加し、韓国史上で歴史的な「六月民主抗争」を巻き起こした。
この抗争の結果、10月に「軍部独裁ではなく、大統領を国民が直接選ぶ」という権利を勝ち取って、大統領直接選挙制と、基本権・人権の保障の拡大・強化を規定した新憲法が公布されることになり、20年後の2007年に、韓国の民主化が始まった日として「6月10日を国家記念日とする」ことになったのだ。
このような熱血弁護士二人を大統領府・青瓦台(チョンワデ)に迎えることになるとは、韓国の国民自身も想像した人は誰もいなかったであろう。
現在の朝鮮半島で何が起こっているかを知るため、すべての日本人がこれらの名作映画を見ておくべきだと思う。
映画館の観客も一体になって、政界を変えてゆく力を持っているのが韓国民である。彼らのダイナミズムは、果てしない。
※週刊朝日オンライン限定記事