前回の最後に、光州虐殺事件翌年の1981年に、学生たちが新たな民主化運動を始めようと動き出した時、韓国の軍事独裁全斗煥(チョン・ドゥファン)政権が何の罪もない学生たちに襲いかかった、と書いた。
これは韓国で有名な学林事件であった。学林とは、首都ソウルの繁華街にあって、学生たちが集まったカフェの学林茶房のことで、クーデターで権力を握った軍部が、光州事件で爆発した学生運動を弾圧しようと警察力で襲いかかったのがこのカフェであった。
共産主義者の取り締まりを名目に、すべての学生運動団体を反国家団体と規定するほど国家の圧政的暴力が横行していたので、それに反発した全国の学生連盟が学林茶房で最初の会合を持ったところで、参加者が逮捕されたのだ。
警察が、学生と労働運動家24人を連行し、水や電気で拷問を加えた後、彼らに「国家保安法」違反の罪で懲役2年から無期懲役までを科して投獄したのだ。
ソウルに続いて、南部最大の都市・釜山(プサン)でも読書会を開いていただけの学生が投獄されるという似た事件が起きたので、こちらは「釜山の学林事件」、略して釜林(プリム)事件と呼ばれた。
近年2013年に公開された韓国映画『弁護人』はこの事件を描いて、観客動員数が1100万人を超える大ヒットとなった。
なぜこの映画が多くの韓国人を呼び寄せたかといえば、これらまったく無実の民主化運動の学生に対して、釜山で無償で弁護を買って出たのがのちの大統領で、若き弁護士時代の盧武鉉(ノ・ムヒョン)であり、彼をモデルにした伝記映画が『弁護人』だったからである。
加えて、映画で盧武鉉がモデルの弁護士ソン・ウソクを演じた俳優ソン・ガンホが、前回に紹介した『タクシー運転手』の主演俳優でもあった。
この作品が正直に描いた通り、盧武鉉は釜山で弁護士を開業した若き時代、農家生まれの高卒で、日本より激烈な韓国の学歴優先社会で馬鹿にされながら、税務弁護士として金稼ぎに熱心な売れっ子であった。後年に国民の人権を守るために国家と闘った盧武鉉とはまるで正反対に、豪華ヨットを買って楽しむ優雅な世界に生きていたのだ。