「浸水の危険を誰が見てもわかる形で提供したかったのです」

 こう話すのは、早稲田大学理工学術院の関根正人教授だ。自身が主導した東京大学などとの共同チームで、東京23区で起きる浸水被害のリアルタイム予測システムを開発した。

 通常の雨は下水道などを通じて河川に流れていく。しかし、激しい雨が降り続くと排水が追いつかず、水があふれ出してしまう。

 そこで、東京23区の建物や道路、下水道や河川などをコンピューターで再現。降雨データを入力すると、水が流れる原理に基づいて浸水が起きる場所を予測できるようにした。文部科学省の関連サイトに表示する。

 豪雨の際には地図の表示と合わせて、「○○交差点で30センチの浸水が起きる可能性がある」などと住民や自治体などに知らせる。

 早稲田大学が5月に記者発表した資料には、浸水危険度マップ(下記参照)が掲載されており、80センチ以上の浸水深になる場所として11地点を挙げている。1時間に50ミリを超える雨が約2時間半降り続いた2005年9月の杉並豪雨と同等の雨を想定したものだ。

 関根教授によると、リアルタイム予測では5分刻みで20分先の浸水危険度を予測する。そして、この20分間が命を守る行動につながる時間だという。

「20分あれば、様々な避難行動を取ることができます。浸水予測地点のワンブロック先まで逃げられるし、高所に避難することも可能な時間が20分です」

 関根教授は続ける。

「杉並豪雨以降、大雨での大きな被害は東京都内からは出ていません。都が貯留管などの整備を進めているからだと考えられますが、東京も西日本豪雨級の大雨に見舞われたら、安全とは言い切れません」

 関根教授はリアルタイム予測をこまめに活用して、浸水を予測する癖をつけてほしいと話す。

「リアルタイム予測をカーナビと融合させることで、例えば、『このアンダーパスは迂回(うかい)しよう』と活用することができます。みなさんの意見を反映する仕組みもあったらいい。このシステムを社会全体で、共に育てていけるような形にしていきたいです」

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