「遺言には何を書いても構いませんが、法的に有効になるのは、主に遺産の分割や処分の方法、相続人、遺言の執行に関することなど。あいまいな表現は避け、預金なら銀行、支店名、口座の種類と口座番号を記す。不動産なら地番や面積まで正確に書きましょう」(曽根さん)

 作成年月日や氏名は全部手書きする。印鑑は認め印でも大丈夫だ。

 遺言は民法で決められた法定相続分に優先する。介護で世話になった人ら、法定相続人以外に財産を残したい場合は、明記する。

 財産の分け方で注意すべきなのは、すでに説明したように、最低限の取り分である「遺留分」に配慮することだ。

「遺留分を超えた分け方だともめやすい。トラブルになる原因は、感情的な部分も大きい。なぜこういう分け方にしたのかなどを、『付言事項』で説明しておくとよいでしょう。決まった書式はありません。ただし、特定の遺族の非難など否定的なものは避ける。余計なトラブルのもとになります」(税理士の佐藤和基さん)

 書き方は自由だが、遺言書の例や作成方法にあるように、守るべき点は複数ある。ルールを満たしていないと、遺言書が無効になってしまうことも。

 法務局が保管する新しい制度では、遺言を預かる際に書式を満たしているかなど一定の審査を行う見通し。ただ、財産の分け方など内容まで確認してくれるわけではなさそう。自筆証書遺言は手軽に作れるが、書いた本人の責任は重い。心配な人は、公正証書遺言を選ぶこともできる。

「元検察官や元裁判官ら法律の専門家が作るので、記載要件が漏れる心配がありません。財産の大きさなどに応じて費用がかかるので、事前に相談しておきましょう」(佐藤さん)

 最後に曽根さんは、遺言を用意する場合の大原則を教えてくれた。

「どんな形式を選ぶにしても、こっそり作らないことです。どこに保管してあるか、どんな内容なのか、概要でもいいのであらかじめ家族に伝えておく。そうすれば遺族間のトラブルは起こりにくくなります」

 遺言書は家族への最後の手紙でもある。今回の記事も参考に、心のこもったメッセージをどう伝えるのか。いまから考えてみたい。(本誌・池田正史)

週刊朝日  2019年7月5日号より抜粋

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