青山のスーパーでバイトしてたときは3年連続で優秀者に選ばれたんですよ。無遅刻無欠勤だし、レジ打ちは速いしね。ご褒美はハワイ旅行1週間! でも3回とも断ったんです。「網走番外地」シリーズのロケと重なってたから。役もないのにねえ。
――38歳のとき、小料理屋の美人女将を射止めた理由も、そんな「まじめさ」だったのかもしれない。
36歳でようやく売れて、飯が食えるようになってね。あるとき地方でのロケから帰ったら、洗濯したパンツがカチンカチンになってた。冬だったからね。なんだかわびしくなってきたんですよ。それで「あれ、いまだったらオレ、所帯持てるな」って。そんなとき知り合いが「深川に石倉さんのファンの女将さんがいるんですよ」「へえ、会いに行くか」って、それが出会いです。
女房は一つ年上で当時39歳。その年でちゃんとした店をやってるんだから「バックにハゲたおやじでもいるんだろう」と思ってね、そう言ったら「冗談じゃないわよ! 何失礼なこと言ってんのよ!」ってバシッと怒られた。「お」と思いましたよ。で、会って2カ月ほどで所帯持ったんです。決め手はぬか漬けの味ですかねえ。おふくろのと同じ味でしたから。そこに惚れましたね。
――2016年には映画「つむぐもの」で主演も務めた。年齢を重ね、唯一無二の存在感を増している。
芝居の世界は本当に難しい。いまでも不安になりますよ。「こんなんで、いいのかなあ」って。でも人生なんておもしろくなきゃ意味ねえだろう、って思いで上京して、ここまできた。いまも同じ気持ちですねえ。どうせ、自分になんて何もねえんだから、一か八かだ、って。
だからこそ、役者という世界にいまだに憧れがある。下手なことでそれを失ったら死ぬほどほぞをかむことになるって、わかっています。博打もそう。これ以上やったらオレはダメになる、っていうのがわかるから、スッと手を引いた。
酒だけは昔から飲んでますけど、それもこのごろじゃ愉しむ程度です。昔はたいしてうまくもなかったけど、いまはしみじみうまくなりました。
(聞き手/中村千晶)
※週刊朝日 2019年6月14日号