昨年8月、患者ら4人が泌尿器科の教授、准教授を相手取り、説明義務違反による損害賠償を求める訴訟を大津地裁に起こした。この訴訟で2人の医師は「治療の初期段階では岡本医師の指導で実施する予定だったので、未経験であると説明しなかったとしても必ずしも違法ではない」などと反論し、争っている。

 患者会は昨年秋から署名活動を行ったり、デモ行進をしたりして岡本医師の治療継続を訴えている。今回の大津地裁の決定で、申し立てをした7人を含め数十人の患者が岡本医師の治療を受けられる見込みだが、講座閉鎖とともに大学との雇用契約が切れる岡本医師が治療と指導の場を確保できるかどうか不透明だ。

 小線源治療は、転移がなく、がん細胞が前立腺内にとどまっているか被膜の外まで浸潤した患者が対象となる。直腸に入れた端子による超音波画像を見ながら、線源(長さ4.5ミリ、直径0.8ミリ)を50~120個、前立腺内に配置する。

 岡本医師がこの治療を始めたのは05年。米国で開発された手法を学んだ。それは、線源を置くたびに放射線の線量分布の変化を確認しながら、治療計画に反映させる「術中計画法」と、前立腺の被膜ギリギリに線源を置く「辺縁配置法」だ。強い線量で確実にがん細胞を死滅させながら周辺臓器の被曝を最小限に抑えるという、相反する目標を達成するための改良を重ね、手順をマニュアル化した。

「辺縁配置と言っても線源をどこに置くかを含めすべての手順を明確に文書化したものがなかったので、尿道や直腸から離れた前立腺の辺縁部に高い線量域をつくるなど、治療手順を具体的に書きました。高精度の療法を広く普及させるためです」(岡本医師)

 17年には高リスク患者143人の治療に関する論文を発表した。放射線を体外からあてる外照射とホルモン療法を併用するトリモダリティを用いた治療5年後の非再発率は95.2%。全体の6割以上はがん細胞が前立腺を覆う被膜を超えて広がった患者だった。

 患者会代表幹事の安江博さん(69)はこう語る。

「岡本医師の治療は患者のQOL(生活の質)を維持するだけでなく、再発した場合の薬物療法の費用が不要という点で経済的にも優れています。大学を離れてしまえば教育の機会を奪われ、治療実績を基に論文を発表することも難しくなってしまう。『患者の最善の利益のために行動すべきである』と宣言した世界医師会の『医の国際倫理綱領』(1949年)に忠実に行動した医師が大学を追われるという理不尽なことが許されてよいのでしょうか」

(朝日新聞科学医療部・出河雅彦)

週刊朝日  2019年6月7日号

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