滋賀医科大学病院(大津市)が前立腺がんの放射線治療で傑出した治療成績を上げ、全国から患者を集めている医師の治療を打ち切ろうとしている。患者たちは署名活動やデモ行進までして治療継続を要請しているが、大学が方針を変える気配はない。
【患者会が行った、岡本圭生医師の治療継続を求めるデモ行進の様子】
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5月20日、大津地裁(西岡繁靖裁判長)が一つの決定を出した。滋賀医大病院が6月末で打ち切る予定だった前立腺がんの小線源治療について、7~11月の間、担当医の岡本圭生医師(58)の治療を妨害してはならないと大学側に命じたのだ。
岡本医師は前立腺に放射線源を埋め込む小線源治療の第一人者。2015年1月に同大がこの治療の研究、教育のために設けた寄付講座の特任教授で、1200人近い患者を治療している。
滋賀医大は17年12月、この寄付講座を「19年12月末に閉鎖し、岡本医師による治療は同年6月末まで、その後6カ月間は経過観察期間にする」と公表した。昨年12月に治療枠が埋まったことから、50~70代の患者7人が今年2月、岡本医師とともに「治療妨害禁止」の仮処分を申し立てた。大津地裁は「経過観察は1カ月あれば十分」という岡本医師の主張をほぼ認め、大学側の主張を退けた。滋賀医大は24日、記者の取材に「決定理由を踏まえて適切に対処する」と答えた。
裁判所への申し立てという、前代未聞の行動には切実な理由があった。7人はいずれも、治りにくいとされる「高リスク」の前立腺がん患者で、岡本医師の治療は高リスクでも再発する率が非常に低いからだ。
この治療がなぜ打ち切られるのか。きっかけは、小線源治療の経験がなかった泌尿器科の医師による治療を「医療安全上問題」と考えた岡本医師が阻止したことだったとみられている。
岡本医師によると、寄付講座ができて間もなく、泌尿器科でも独自に小線源治療を計画。岡本医師を特定した患者以外は小線源治療の経験がない同科准教授を担当医とした。