芸人から大衆運動家に変身するきっかけは、ITエンジニアで政治運動に取り組むジャンロベルト・カザレッジョとの出会いだった。カザレッジョは、ベッペの毒舌をインターネットで公開した。コメントが書き込まれ、主張は爆発的に拡散。ネット空間とリアルな劇場がつながり、運動はイタリア全土に広がった。

「ムハマド・ユヌスやジョセフ・スティグリッツら、ノーベル賞級の専門家がコメントを書き込んでくれるようになった。ブログや集会を通じて政策をまとめ100万人を超える署名と共に首相に提出したが、無視された。だったら自分たちの代表を議会に送り込むしかないと考えた」

 職業政治家を信用しないベッペは、政党を名乗らず「運動」とした。09年10月、イタリアの守護聖人・聖フランチェスコの記念日に五つ星運動を立ち上げた。五つ星とは(1)発展(2)水資源(3)持続可能な都市交通(4)環境保全(5)インターネット社会を表す。候補者はネットを通じ公募し、党内の意見交換や投票は、独自に開発したソフトを通じて行う。

 五つ星運動は、まずは身の回りの問題と関わりの深い地方議会で勝利した。13年には国政に挑戦し、いきなり第二党に躍進。ベルルスコーニ元首相に代表される政治の腐敗を苦々しく思っていた民衆の支持を得た。

 18年3月の総選挙では公約として「市民所得」を掲げた。年金所得を含め、貧困ライン以下の人たちに月に最大780ユーロ(約10万円)を支給するというものだ。

 第一党となり連立政権を樹立した今年1月、「市民所得」を盛り込んだ予算案が議会で可決された。全ての国民に一定額を保証する制度にはまだなっていないが、ベーシックインカムの第一段階と位置付けられている。
 今回の講演で、「五つ星運動にとって譲れない政策は何か」と問われた
ベッペはこう語った。

「ベーシックインカムだ。導入されれば働き方や職業観が変わる。仕事と個人の生活の関係や、消費や財政などに革命的な変化をもたらす」

 財政の悪化が心配されているが、失業に苦しむ若者らの消費が活気づいて経済は拡大すると五つ星は主張している。

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政治は芸人でもできる