ところが、いまはテーブルや床を抗菌スプレーで掃除して、乳首や哺乳ビンを消毒してしまう。家の中でも台所用品や衣類、寝具なども抗菌・除菌グッズをそろえている。

「その結果、大人も子どもも免疫力が低下し、花粉症や気管支ぜんそくなどアレルギーになりやすくなっています。免疫力の低下はインフルエンザやノロウイルスなどの感染を招きます」

 現在、病原性大腸菌のO157やO111による集団食中毒がたびたび起き、時には死者を出している。1996年に、大阪府堺市の小学校で学校給食による集団食中毒が発生。国内がパニック状態になった。藤田さんが調査をすると、下痢をくり返して重症化した子は10%だった一方で、大便からO157が検出されながら、まったく無症状だった子が30%いたという。重症化した子は、比較的裕福で、親の清潔志向が強い傾向にあったという。

「清潔志向で腸内細菌が少なくなって、病原菌を追い出す力がなくなってひどい下痢を起こしていたのです。また人間が抗菌薬や消毒剤で大腸菌をいじめたため、O157という強い攻撃力を持った変異種を出現させてしまったわけです。けれども、O157はもともとヤワな大腸菌で、腸内細菌がいっぱいいると、他の菌にやっつけられて増殖する余地はなかったのです。ベロ毒素を出すこともなく排除されていました。ノロウイルスも感染力は弱く、昔は誰も嘔吐(おうと)や下痢など発症しませんでした。いまの日本人はヤワな病原体にも簡単に感染するようになったのです」(藤田さん)

(本誌・亀井洋志)

週刊朝日  2019年4月5日号より抜粋