伊藤:ですよね。私たちのおかげですよ。そう思わない?

林:そう思う。

伊藤:私たちのちょっと前にウーマンリブというのがあったじゃないですか。フェミニズムというのが出てきたのは、私たちがある程度大人になってからですよね。そんなのがあるんだと聞いて育った私たちが、大人になって子どもを産めるような時代になったときに、ストッパーがかからずに「行けーっ!」みたいな感じになったんだと思う。

林:うん、うん。

伊藤:昔、前の夫と一緒に動物番組を見てたんですよ。その中でサルが出てきて、芋か何か投げたら手でパッとつかんだの。で、もう一個投げたら反対の手でパッとつかんだの。さらにもう一個投げたら口でアウッてつかんだの。加えてもう一個投げたら足でパッとつかんだの。「次に投げたらどうしますか?」という問題だったの。どうしたと思います?

林:頭でヘディングした。

伊藤:すごいわね。それが答えだったの。次は麦を投げたんですよ。サルは目をつぶって顔面で受け止めたのね。芋を離さないで。それを見て前の夫が「これ、おまえみたい」って言うの。あれもやりたい、これもやりたい、みんなやりたいんだ、みたいな。それが80年代の私たちよ。

林:私もそうかもしれない。

伊藤:女として生きる、でも、きちっと型にはまった人生はイヤだ、子どもを産んで育てたい。でも、一人でやるんじゃなくて夫にも押しつける。仕事もガンガンする、みたいな。バブリーなんですよ。おそらくね。

林:確かにそう思う。

伊藤:バブルのころ、私たちは本が売れましたよね。

林:売れた。こんなに本が売れない時代が来ると知ってたら、貯金しとけばよかったと思う。

伊藤:まさしくそう。

林:今や中間小説の月刊誌が売れなくなっちゃって、純文学系の月刊誌なんか存続の危機でしょう。

伊藤:昔の人たち、文学がこうなるとは誰も想像してなかったんじゃないですか。ドストエフスキーとか漱石とか芥川とか、文学がこうなるとは誰も思ってなかったことを、今、私たちが体で感じてるわけで、タイタニックみたいなもんですよ。すごくスリリングなことじゃないですか。

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