皮膚に繁殖するカビは白癬菌だけではありません。マラセチアというカビもいます。このカビは正常な皮膚にもすんでいます。脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)という皮膚病は、顔や頭に多くのフケができる病気ですが、これはマラセチアによって悪化することが知られています。頭のひどいフケやかゆみはマラセチアをへらすことで改善する可能性があり、カビを殺すシャンプーなども市販されています。
また、胸や背中にマラセチアが繁殖し、ニキビのような症状を起こすことがあります。ニキビの治療をしていても治らない場合、マラセチア毛包炎の可能性があります。また、白く色が抜けたように島状にひろがる癜風(でんぷう)もマラセチア感染症です。
「カンジダ菌」もいます。皮膚科でよく見かけるのが、おむつかぶれに間違われた症例や、おむつかぶれと一緒に感染している場合です。カンジダ菌は指の間にもできますし、口のふちにもできます。
この口のふちが切れた状態を、奈良の方言では「あくち」と言います。「あくち」という言葉、関西では使う人が多いですが関東ではほとんど聞きません。私も京都に移住してはじめて聞いた言葉です。
方言つながりで話を展開すると、ヘルペスウイルスで起こる帯状疱疹(たいじょうほうしん)。中国地方など一部の地域では「胴巻き(どうまき)」と呼ばれています。島根の病院で勤務していたとき、患者さんに「胴巻きでしょうか?」と聞かれ「胴巻きってなんですか?」と聞き返した経験があります。帯状疱疹を知らないわけではなく胴巻きという言葉を知らなかっただけなのですが、患者さんから不審な目で見られてしまいました。
「胴巻き」という名前は、帯状疱疹が背中からおなかにかけて胴体を巻くように皮疹が出現するためについた名前のようです。さらに、この胴巻きが体を一周すると死ぬという噂が島根ではありました。帯状疱疹は神経の走行にそってウイルスが増えますので、体を一周することはありませんし、一周しても死ぬことはありません。
帯状疱疹は、ほかにも「つづらご」「ひっつらご」「へびたん」など日本各地に方言が存在します。それだけ一般の人にもなじみ深い皮膚病ということでしょう。
さて、今回は皮膚にできるカビとその俗称、さらには皮膚疾患に関わる方言を紹介しました。こうしてまとめてみると、カビも方言も奥が深いですね。