何らかの形でアプリを作りたいとは考えていたが、中身は「まったくの白紙」だった。一人の郷土史家、志田威さんとの出会いが転機になった。
「市井の庶民の生活を熱心に研究している史家で、すぐに意気投合しました。地元の郷土史家を集めて『本当の歴史』を集めてはどうかと持ちかけたところ、すんなりリーダーを引き受けていただけました」
8人の郷土史家が1年がかりで六宿に残る史話を集め、昨年、「静岡市 二峠六宿に眠る文化財・史話等を求めて」と題する報告書がまとめられた。そして、その内容がほぼそのまま、アプリになる(18年度は蒲原・由比・興津。残りは19年度)。
泊さんは昨年、顧問も退任、晴れて自由の身になった。頼まれて、あるコンサルティング会社の社長を務めているが、その給料をすべてこのプロジェクトに注ぎ込む入れ込みようだ。夢はどんどん広がる。
「ようやく一つ、街道巡礼の成功例ができました。これからは、もう一つの成功事例を作るべく別の自治体に働きかけていきます。何年かして二つ目が成功すれば、堰を切ったようにこの動きが広がるのではと思っています。日本全国で『100街道1000宿巡礼』アプリ──こんなことを思い描いています」
「人生100年時代」が叫ばれるようになり、長い老後をどう生きるかが改めて問われている。地域や消費の現場で活発な動きを見せる大人女子はいいのだが、会社を辞めたリタイア後の男性がさえない。会社人生が終わって、ただでさえ「終わった感」で落ち込んでいるのに、地元に足がかりがなかったりしてやることを見つけられないのだ。
現役時代からシニアライフの生きがいづくりを唱え、「人生・活き生き塾」を主宰する臼倉登貴雄さん(71)によると、リタイア後は家に引きこもってしまう男性が多いという。
「趣味を熱心にする人も含めて、男性では大体3分の1が外に出て活動していますね。残りの3分の2は家にいて何もしていません。図書館に通ったり、ショッピングモールの休憩場所で時間をつぶしたり……。コーヒーショップなどでは、誰が座るか席が決まっているところさえあります」