有名人が病気を公表することで、残念ながら困ったことも起こります。
ひとつは根拠のない民間療法があわせて広まり、健康被害がおこること。これまで医師の指導のもと、適切な治療を行っていた患者さんが間違った治療やうわさ話に惑わされ苦しむことがあります。よかれと思って紹介したサプリメントが、実は病気に悪影響を与える成分が入っていたなんてこともありえます。
また、有名人自身が特殊な治療法を実践していて、あたかもその治療ですべての患者さんが治ると勘違いしてしまうこともあります。現在の標準治療は厳しい試験や検証に堪えてきた、多くの患者さんにとってメリットがあるということを忘れてはいけません。これは健康情報全てにいえることですが、過激な宣伝や陰謀論に惑わされ、大きな健康被害を受けても最後に責任を取るのは自分です。
皮膚病は他人から見えるため、かゆみや痛さに苦しむだけでなく、見た目のストレスもかかります。そして、「サプリメントで治った」などの根拠がなく無責任なアドバイスに惑わされることもあります。専門家ではない人からの「余計なお世話」は、想像以上に患者さんを苦しめます。残念なことに、今の世の中にも治らない皮膚病は多く存在します。肌の色や髪の毛の色と同じように、皮膚の病気も顔のほくろも、個性の一つとして捉えられる社会になればすてきだと思います。そして、私たち皮膚科医は皮膚病を治す努力を今後も精いっぱい続けていかなければならないと思っています。
◯大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医。がん薬物治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman