自らも20年来のタカラヅカファンで、ネットで「特急乗るなら宝塚増やす」のブログを展開しているボン乃セリ美さん(40)は、こう言う。

「『ときめきたい』『育てたい』『出世を味わいたい』の三つがタカラヅカにはまる大人女子の特徴ですね。『育てたい』という思いは、若手が入団したころから目をつけて贔屓にし、階段を上るように出世するのを同時体験していくのですから、女性が持っている『母性』に響きます。また、本当は自分もジェンヌさんのように働く女性としてもっと輝きたかったという願望も満たせます」

「ボン乃セリ美」はもちろんペンネームだ。劇場にある直径15メートルの回り舞台の「ボン」と、ステージがせりあがる「セリ」を組み合わせてつけた。「特急乗るなら~」は、地方在住のため特急券代をためて観劇回数を増やす意気込みが込められている。

「ファンたちの『ときめきたい』の部分は、ジェンヌさん自身が女性だから何をやれば受けるかを知りつくしています。一人の観客を見てウィンクする『一本釣り』などで、はまるファンがいっぱいいます」

 元阪急社員で『元・宝塚総支配人が語る「タカラヅカ」の経営戦略』の著書もある阪南大学の森下信雄専任講師は、人気の秘密は「虚構」にあるという。

「『嘘・偽り』という意味ではなく、『現実ではない』という意味での虚構です。女性が男性を演じる完全な虚構からスタートしていますから、何でもありの世界なんです。ありえないストーリーでも許されるし、理想の男性像は無限ですからファンが自由に想像することができる。夢想や妄想が無制限に展開できるところがすごいんです」

 そして、いったんはまってしまうと、そこはタカラヅカファン独特の世界だ。お金がものをいう仕組みが、そこかしこに仕掛けられている。

 まずはチケットの入手法だ。現在、一般人が普通の方法でタカラヅカのチケット(S席で東京は8800円、大劇場は8300円)を手に入れるのは、ものすごく狭き門だ。チケットを買うために歌劇団の公式組織である「宝塚友の会」に入ると少しはましになるというが、「それでも、なかなか当たらない」という人が多い。

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