作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は氏が受けた「嫌がらせ」について。
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去年の春、頼んだ覚えのない健康食品サンプルが会社に届いた。私が注文したことになっている納品書を見ながら、そのまま袋ごとゴミ箱に投げ捨てた。
それからすぐ、違う会社の健康食品が、今度は代引きで届いた。スタッフに「立て替えておきました」と手渡された小包の中には、サプリなどが約2千円分。すぐに通販会社に送り返した。
3度目はブラジャーだった。巨大な茶色のブラジャー数枚が段ボールに押し込まれていた。総額4千~5千円。これが危険物とか、腐った食べ物だったりしたら、何か対応したかもしれない。だけど茶色のブラとか健康食品とか……気味は悪いが中途半端だ。
悪質な嫌がらせは、これまでもあり、警察を頼ったことも2度ある。最初は会社のサーバーを攻撃されたとき。2度目は私の葬儀の見積書が送られてきたとき。
警察は親身とは言いがたかった。「サイバー警察に連絡します」とは言うが、「IPアドレスをプリントアウトして持参してください」とサイバー感ゼロなことを言われ絶句した。自分で証拠を揃え、何度も同じ証言を求められる。そのうち面倒くさくなり、曖昧なまま私は諦めた。今回もそう。私は何もせず、ただ「今後は代引き受けとらないでね」とスタッフにお願いしただけで終わらせた。
昨年暮れ、北九州市議の村上聡子さんが、ブラジャーや健康食品を送りつけられていると訴えているのを知った。村上議員は通販会社とやりとりし、注文書がハガキで送られていること、消印が全て山口県内からで、筆跡も同じだと突き止め、刑事告訴をしている。「自分一人の問題ではない」と、声をあげられたのだ。
頬を叩かれた気持ちになった。自分の沈黙に。私はいつの間に、こんなに諦めていたんだろう。諦めただけではない。被害を公表することも私は避けた。「北原さんみたいになりたくない」と思われ、発言したい女性を萎縮させるのではという恐れもあった。本末転倒。その沈黙こそが、加害者をつけあがらせ続けたのかもしれない。次の被害者を生んだのかもしれない。