H社の迂回融資に関する通帳や印鑑、契約書などはメガバンクが保管。
そのうちH社の経営状況がさらに悪化し、メガバンクの言いなりになって、H社の建設したマンションの差し押さえ手続きをした。
すると、「H社に貸したのではなく、あなたに融資した。マンションもあなたが建設した」とメガバンクが態度を一変。名義貸しの借金30億円あまりを背負わされてしまったのだ。
その後、借金を巡って裁判となり、Sさんの父は敗訴。だが、交渉の結果、前出のマンションの賃料収入から返済することで合意した。
Sさんの父は自身の借金ではないにもかかわらず、返済し続けていた。
そして、2年前にSさんの父は他界。Sさんは父の死後、土地やビルなど財産を相続。問題のマンションもそれに含まれていた。そして年に一度、返済する金額を決めるためメガバンクと交渉に出向くと、担当の態度がおかしい。
「合意したのはあなたの父とだ。息子ではない。父から財産を相続したのなら、借金を一括弁済してほしい」
メガバンクは、不動産市場が好況で、Sさんが相続した財産を全部処分すれば一気に回収できると、強硬手段に打って出たのだ。
「私は長男、相続するのは当然です。問題のマンション以外にも住み慣れた父の自宅などもありましたから。メガバンクへの借金もこれまでどおり賃料収入から返済と信じ込んでいた。なのに『すぐに全額返せ』と言われ、目の前が真っ暗になった」(Sさん)
さらに2018年5月、メガバンクはSさんが相続した不動産を強制競売にかけた。父から“負動産”を相続してしまったSさんは小さな子を抱えて、途方に暮れる日々だという。
茆原(ちはら)洋子弁護士はこう解説する。
「例えば、親から遺産を相続する場合、預金など自分に都合のいいものだけを相続することはできません。借金があれば、それも相続の対象になりますので、気をつけなければなりません。借金など負の遺産を相続したくなければ、預金などすべての資産も放棄しなければなりません。それが、民法で定められている法定相続です」